大好きな隣の家のおにいさんがとられそうだから泣くんじゃないよ。





それはまぎれもなく
青春





「僕はーですねー、セックスがーしたいんですー師叔とー」
「おっそろしーな、お前」


昼休みの屋上で話す話題じゃないだろと、隣の友人は呆れたように笑った。
昨日のテレビとかサッカーとかあいつがどうしたあの先生はムカツクとか、そんな話をすればいいんだ中学生というのは。
でも正直どうでもいいです。ついこの間まで小学生だった中学生だけど、僕は愛に生きてます。
見上げていた空に雲の動きがなくなった頃やっと僕は顔を友人に向けた。
寄りかかっていたフェンスがかしゃっと音をたてる。


「そういう好きなんです」


ああそう、とか言わないでくださいよ。
そりゃ長い付き合いだからそれくらいお見通しなのはわかるけれど、もっと食いついてくれたって。
好きでしょ?恋愛ごと。
あ、寝たふりとか酷いなー。


(別に、話したからどうなるわけでもないけど)


どうやら本気で寝入ってしまった友人に、白状な奴めと思いつつ僕はまた空を見上げた。
寄りかかるフェンスは固くて痛い。コンクリートの床はもっと固いだろうに、そんなところで熟睡できる友人をある意味すごいと思った。
馬鹿にしているわけではなくて、そんなところでも寝てしまえるほど疲れているんだ。
部活で。片想い中のマネージャーにいいところ見せたくて頑張っているらしい。
それがとても羨ましかった。

屋上にいた他の生徒は、午後の授業のためにぼちぼちと教室に帰り始めてる。
このままここに居たら師叔が呼びにきてくれないかな。

無理だけど。
だって彼は今高校生だから、僕は中学生だし。
高校というのはやはり中学とは違うのだろうか。何が違うんだろう。
師叔は高校生だけど、何も昔と変わってない気がする。
僕が知らないだけなのかな。
高校も3年生になれば、中学生のガキにはわからないことなんていっぱいあるに違いない。
それが勉強であれ、社会道徳であれ、恋であれ。


「寝てるところ悪いんだけど、ちょっと話聞いてもらえませんか?勝手に話しますよー?いいんですかー寝てる人に話し掛ける僕って相当馬鹿っぽいですよー?」


返事なんか期待してない。
むしろ聞いてくれないほうがいいよ。どっちなんだ。
言いたいだけだから。僕が馬鹿っぽく見えちゃうのは君のせいだけどね。


「師叔と、同じ歳だったらよかったと思うわけですよ僕は」





昨日、あの人の隣に知らない女の人がいるのを見た。
いつもの公園で師叔を待っている時、ちょっと遅かったから迎えに行って驚かそうと公園をでたのがいけなかったんだ。
前にも一度、確かいつかのクリスマスにもそういう場面を見たことがあったけど、相手の人にはしっかり彼氏がいた。
あの時とこれが違うなんてことは、分かる程度には僕も成長したと思う。
そのとき師叔が好きだって、唐突に思った。


同じ歳だったら、と思ったことはなかったんだ。
もしそうだったら今の関係になってないかもしれないし。
友達になって、小中一緒で、でも高校は離れてそれでも時々遊んだりして、大学はお互い県外のとこに進んで忙しくなって恋人もできてすっかり疎遠。
なんてことになったら泣きますよ僕は。

だから同じ歳だったらなんて思わない。
今と違っていたらとは絶対に思わないよ。

だけど今、こうやって予鈴がなっても屋上の隅で座ってる僕を怒りながら呼びにきて欲しいとも思うのはいけないのだろうか。
師叔が見てくれるなら頑張るよ部活。
あの人誰ですか?もしかして彼女?とかきっと普通に聞ける。(実際そうだったら嫌だけど)

今師叔も昼休みが終わったところだろうか。
昼寝が好きな人だから、午後の授業が始まっても気づかず夢の中かも。
師叔らしいな、と頬がゆるんだ。
先生に注意される前に、小さく肩を揺らして起こしてあげたい。
今、誰かがそうしてるんだろうか。
あの女の人がしてるのだと思うと、割とあっさり死ねそうです。


「お前さー、暗すぎ」


いつのまにか俯いていた顔を上げると、寝ていたはずの友人が伸びをしていた。
起き上がって凝り固まった体をほぐすその背中のなんと意地悪なことか。
聞いてとは言ったけどいいよとは言わなかったのに。
あーあ。しゃべりすぎたかも。


「いつから起きてたんですか?」
「さあな、別にいいじゃん」


大きなあくびをひとつ、のんびりしてからくしゃくしゃっと彼は自分の髪を掻き回した。


「俺たちさ、中学生じゃんか?」


そうですね、とだけ返し沈黙で続きを促す。
やわらかい風が長い髪を揺らした。
彼はどうしようもないバカだけど、言う事はいつだって的確だった。


「年下は年下なりの、なんつーの?可愛げとか守ってやりたい感とかあるわけよ。わかる?」
「まず恋愛の対象にすら見られてなかったら終わりですけどね」
「そうだよな。彼女できちゃったしな」
「・・・・・・・違いますよ」


何が違うんだろう。


「確かめてないんだろ?確かめろよ。怖いとか言ったらぶっとばす」
「怖いよ」
「はいパンチ決定〜」


殴る気なんて更々ないようなパンチを、僕は黙って頬に受けた。

サンタに師叔が欲しいと書いていたあの頃から、変わってないのは僕のほう。
たいした勇気もないくせに、セックスとか愛とか何言ってるんだろう。
でも師叔は好きだよ、すごく。
昔からずっと。
痛くも無い右頬に手を当てて、僕はずるずるとフェンスを滑って寝転んだ。


「きいた。いい右ストレート」
「だべ?」


得意げに笑う顔は見えなかったけど、そっと心の中で感謝した。
ああ彼が、本気で例のマネージャーと上手くいけばいいと思うよ。


「あのよ、でも俺は太公望さん」
「師叔」
「師叔さんの一番はお前だって思うぜ?あんなにお前のこと可愛がりすぎてて、彼女とかありえねーし」
「だよね」


この自信が第一歩だ。

今更足掻いたってどうしようもないことを考えるのはやめよう。
僕はやっぱり同じ歳じゃなくて良かったよ。
























「・・・・・で結局?ただのお友達だったりしてあんなに青春した僕は何だったんだろうって思いましたよまったく。という話を思い出したので、寂しくなって来ちゃいました。襲いに」
「いいいいいいい、いきなり人んちの風呂あけて何を言っておるのだお主は!!」


そんなこと言ってもだめですよ師叔。
愛に生きてるんですから僕は。
年下なりの可愛げとか守ってやりたい感とかに絆されて・・・あ、もうないですかそうですか。
ちょっと嬉しいんですけどそれ。


あれから3年経って、今は僕が高校生。


「で・て・け!!!」
「だったらお湯でもなんでもかけて追い出せばいいじゃないですか。だめですよ師叔、僕期待しちゃいますから」
「すな!!」
「もう遅いですー。では!!」
「〜〜〜!!!!」


ねえ師叔、今僕とセックスしたいよね。






いや別にそれが全てとは言わないけど手段としてね。
二人が付き合いだしたきっかけを、と思ったら違うきっかけに・・・
楊太に女の影とかちらつかせてよかったのかなー・・・
うん、楊ぜん変わりすぎとか自分でもわかってるんだ。
これでも感謝の気持ちは溢れんばかりにあるのですよ(嘘くさい)
ほ、ホントにあるんですって!!3年も続けさせて頂いて感謝しきれません。
そしてどうぞこれからも、りんご園をよろしくお願い致します。
あ、楊ぜんの友人は姫発あたりで・・

04.4.12 りんご拝