曖昧な仕草で

逸らして、かわして、とことん逃げる。狡いけど。

今考えたら何もかも溢れ出しそう・・・。








曖昧な仕草で++








ちょっと、油断したかも。







「楊ぜん・・・」

「見つけた」

「・・・見つかったのぅ」

「探したんですよ」

「知っておる」

広い荒野に二人。

対峙する距離を風が吹き荒れ目の前の蒼い髪が空気に散った。

久々に綺麗なものを見た気がして自然と目を細める。

「じゃあ何故」

「何故であろうな」

薄く微笑み問いを軽く受け流す。

しばらく続いた沈黙のあと楊ぜんはため息とともに困ったような微笑みを見せた。





油断したのだ。





一瞬心臓がバカみたいに跳ね上がる。順に鼓動が激しさを増す。息苦しい。

それでもそんな内側を悟らせぬよう曖昧に笑ってみせた。でも上手に笑っただろうか?

最後に見たのと同じ。いつもと同じ。変わらぬ楊ぜん。

まだ目の前をちらつく蒼の一端を掴んで思いっきりひっぱる。

「痛いですよ。そんなに引っ張らないでください」

「久しぶりに触った」

言い終えぬ間に。次に見えたのは白い布。

強い力で肩を引き寄せられ胸にぎゅっと抱きしめられた。

いい匂いがした。

「いいかげん戻ってきてください。皆も待っています」

うるさいほど耳を掠める風のせいか。でも良く聞こえないせいではない。

言葉が何かにぼけているのは。

ようぜんは。

「もうふらふらするのにも飽きたでしょう?武吉くんも四不象も心配してますよ」

ようぜんは。

自分は上手くはぐらかして本当のことは言わないのに。

相手に求めすぎてて嫌な奴。前はそれほどでもなかったのに。

「生憎わしはまだまだふらふらしたいお年頃でのう。武吉やスープーによろしく言って・・・」

肩を押してその腕から抜け出そうと思ったのに。こうなってはもう駄目だ。

あ。と声を漏らした時には視界にぬけるような青空が広がっていた。




(・・・逃げるか)

とっさのことに地面へと打ち付けてしまった腰の痛みに舌打ちし、空間をつくろうとしたが失敗する。

「言ってもいいですか」

「は・・・・?」

両腕を縫い止められていることもあったが、なにより楊ぜんの空が間近に迫って視界を遮ったから。

真剣な紫の瞳と真剣な声・・・は少し震えて。

何を、と聞くきにはなれなくてただ瞳で答えた。なんとなくはぐらかしたくはなかった。





甘くみて油断したのだ。曖昧なままにしておけばよかった。





「・・でもね、一番心配してあなたの帰りをまってるのって僕なんですよ?」





「うそつけ。・・あぁ、いつかの決着がつけたいからまっておるのか」

「違います。”心配して”って言ったでしょう。戻ってきて僕と一緒にいてください」

「うそっぽいのう〜」

わざとふざけて相手の言葉を真に受けはしない。

喉が酷くひきつって目の奥がなにやら熱いのに。

きっと本当は泣きたかった。




「もう・・どうしてあなたはいつもそうなんですか」

「?」

てっきりふざける自分を睨み付けるものだと思っていた。が、可笑しそうに、優しく微笑まれた。

久しく感じていないあったかさ。

「逃げないでくださいね?」

そう前置きし、押し倒していた体を抱き起こした楊ぜんはそのダボついた服についた土をぱっぱと払う。

「・・のう」

「ずっと」

「え?」

下の方から順に土を払う体勢で、顔が下を向いてて聞きづらいが。聞き逃しはしなかった。

腰のあたりの土を払い落としながら楊ぜんは続ける。

「ずっとね、ずっと、ずーーーっと、ずっと、ずっと」

「・・・・・」

「逢いたくて逢いたくてホントにあなたが好きで、逢いたくて

そりゃ一度は憎みもしましたが・・・でもやっぱりあなたがいない世界なんて考えられない。

生きているって知ったときどれだけ嬉しくて、逢いたくて」

手は肩へ移動しそれにならって視線も上へ移動する。

「仕方なかった、って言ったら」

「・・・・・」

最後に頬へついた土を払おうとするが濡れていて張り付いてしまっている。

それでも優しくそれを拭い取り、そっと撫でてから苦笑した。

「泣いてくれますよね?」

「・・・・っ・・・ふ・・ぅ」

さっき押さえ込んだばかりの涙が、溢れる。感情が高ぶる。

何もかもこの男にお見通しなのが悔しくもあるが。

温かい胸に抱き寄せられた時、今度は広い背中にも腕をまわした。

「でも・・・わしはもっ・・う変わってしまったのだ・・!お主の太公望ではない・・・っ」

早く逃げてしまえば良かった。

もう、溢れ出して止まらない。涙も、想いも。

「僕の気持ちなんてどうだっていいんですよ。大事なのはあなたの気持ち。

あなたが僕の分まで考えることはないんです・・・この想いは何もかわっていません」

「では何故・・・・・っ、なぜ名前を呼んでくれぬ!?」

「え?」

「会ってから一度も、っ・・・・ふ・・・呼んでくれぬではないか・・わし・・が伏羲だから、であろう・・?」

俯いて、自分を思う。

変わってしまったのに。名前すら。もう呼んではくれないだろう・・・別人だから。

聞かなければ良かった。答えが聞きたくないから逃げたのに。

曖昧なままほったらかしで良かった。




「バカ」




ぴしっとひとつデコピンを喰らわされ、驚いて顔を上げる。

怒ったような、泣き出しそうな顔がそこにはあった。

「まったく、今までそんなこと気にしてたんですか?そんなの会話上たまたまですよ、師叔」

「太公望師叔」

師叔。

「それに想いなんてそう簡単に変わりません!この世で愛していたいのはあなただけです。

一応自分の中では決着もついてます。

僕にとっての最重要事項はあなたのその気持ち。

あなたのほかに”太公望師叔”はいますか?」

師叔。

「・・・・いない」

「僕の師叔・・・・・帰ってきてくれますよね?」

思わず頷く。でも迷わず。

昔からこのねだるような問いかけには弱かったのだ。

全部全部変わらない楊ぜん。

だからまた泣きたくなった。








「師叔、僕のことはこれくらいにして。それより師叔はどうなんですか?」

「なにがだ?」

涙に濡れた顔は丁寧に肩布で拭かれ、今はそれを敷き布にして二人で寄り添っている。

目だけはまだ、足りない、というように潤んでいるが。

「僕のこと愛してくれてます?」

「!!?なっ・・・・!!」

「今まで散々避けられて逃げられて・・・僕だって不安になったりもしますよ。で、どうなんです?」

「ど・・・どうって言われても」

徐々に迫ってくる綺麗な顔に圧倒され、頬が紅潮してゆく。

久しぶりに顔なんか赤くしたと思う。

「あいしておる・・・・よ」

「師叔!!」





こやつの前では油断しすぎだな。





唇をきつく塞がれながらふっと笑う。

楊ぜんの手が服のしたへ潜り込んでも止めようとはしなかった。

「いいですか?」

そんなこと聞くな。恥ずかしい。

どう答えていいかわからなかったし、本当にこれは久々なのだ、と考えて。

腕を緩く首にまわすことだけで合図する。

これだけはまだ。

今日だけはまだ、曖昧な仕草で・・・・








end....

 

後日談はいかん・・・。
難しいです。私にはムリ。
謎文でゴメンナサイ。