「うーにがいー」
「師叔、これを」




僕じゃだめかな。




宥めて宥めてようやく薬を飲んでくれた師叔の口に、小さな飴をころんっと入れてあげる。
こうやって飴をあげないと絶対に苦い薬を飲んでくれない子供な師叔。
そんな師叔は薬の苦さを誤魔化そうと必死に飴を転がしている様子で、それがまた子供っぽくて思わず頬が緩んでしまった。
ああいけない。
師叔は今、一生懸命高熱と戦ってらっしゃるのに。

最近なにかと忙しく、疲れて免疫力の低下していた師叔の身体は、簡単に今年の流行り病にかかってしまったのだ。
本当は注射を打つのが一番いいのだけど、飴がないと薬も飲めない人にそれは無理なお話です。
赤い顔をしかめて苦さとも戦ってる師叔にやれやれと微笑み、飴の入った袋を引き出しにしまう。
と、ふいに下からくいっと袖が引かれた。

「のう、これじゃ苦いのがとれん・・・もっと大きい飴をくれ」
「だめです」
「楊ぜんー」
「そんな甘えた声だしてもあげません。この前のことお忘れですか?」

以前師叔が寝込んだとき同じように頼まれて、その時は可愛いおねだりに負けて大きな飴をあげてしまった。
しかしあげたはいいが、飴がなくなる前に師叔はウトウトしてしまい喉に詰まらせて大騒ぎしたことがあった。
それからは、気をつけて小さめのものを選んであげている。
だからそんなうるうるした上目づかいでおねだりされてもだめなんです!
だってもうすでに、かなり師叔の目はトロンっとしていた。

「のうー・・・」
「だーめ。大きいのは僕の飴です」
「お主のものはーわしのものじゃー・・・」
「はぁ・・・・じゃあ・・・今舐めているのがなくなったらあげますよ。あ、でも噛んでも飲み込んでもダメですからね」

よく効く薬だし、この様子ならどうせすぐ寝てしまうだろう。
適当にそう言うと師叔は今度は眠気とも戦いながら口の中の飴を失くしにかかっていた。
舐めてる途中でまた寝てしまったら、今度は喉に詰まらせないよう取ってあげなくちゃ。勿論、ディープな感じで優しくね。
なんて考えている間に・・・師叔は予想に反して寝てはくれなかった。
そんなに苦かったかなぁ。

「ほら・・全部、舐めたぞ」
「っ・・!」

見てみろと、師叔は口を開けて舌をだしてみせてきた。
熱で上気した頬とトロンとした目、そこに半開きの口から可愛らしい赤い舌を突き出されてどきりとする。
これはまたなんとも・・・・
い、いやいや相手は病人だ今は我慢と、頭を振って邪念を追い払う。
寝ないと治りませんよ?とか、なんとかもう寝てもらおうとするのだが、師叔はいやいやと駄々をこねる。

「師叔・・・ほら、そろそろ薬も効いてきたでしょう?」
「いやだ・・・まだ苦いっ・・・大きいの欲しいのだ・・・」
「・・・・・・」
「大きいの舐めたい・・・これ舐めたら楊ぜんの大きいのくれるってゆったではないかぁ・・・」

大きいのが欲しいと、自分の大きいのが欲しいと(飴ですよ)、服の裾を掴み潤んだ瞳で懇願してくる。
熱と効いてきた薬のせいで、きっと自分が何を言っているのか絶対わかってないに違いない。
そんなの性質が悪すぎますよ師叔!

「・・・・・・・治したら、あげますよ」
「ホントか!絶対だぞぉ・・・」

体力と眠さの限界だったらしい。
安心したようにそう呟やくと、やっと師叔は眠りについた。
深く眠った事を確認し、乱れてしまっていた髪とかけ布団を整えてあげ、そっと部屋を出る。
そして扉を閉めた瞬間、つめていた息をはぁぁと吐き出した。すごく危なかった!
そんなつもりはこれっぽっちもないんだろうけど、熱にうかされた姿でああ言われると違うことを想像してしまう。
ああ、あの人の一体どこが子供なんだろう。
でも師叔も高熱と戦ってるんだし、僕も自分と戦います。我慢です。
ドキドキを落ち着かせると、部屋の中から微かに静かな寝息が聞こえてきた。

早く元気になってくださいね。
元気になったらいっぱいあげよう。

何をって。


「やっぱ飴じゃなきゃだめかなぁ・・・・」





おわり

 


飴じゃなきゃだめです。