第三者から引き出された間接的告白 玉虚宮ににある長い回廊を一人の男が歩いていた。 かつかつ、と少し早い彼の足音が、誰もいないここに響く。 彼は仙人界崑崙山の教主である原始天孫との謁見を終わらせ、己の洞府に帰るためにここを歩いている。 出口はもうすぐそこというところで彼は間延びした独特の口調に引き止められた。 ぴたりとその場に留まると、無数にある柱の陰から少女が出てきた。 「突然だけど貴方に質問があるわー、楊ゼン」 彼女の名前は太公・望。原始天孫の弟子である。立場的には彼女の方が上なのだろうが楊ゼンは彼女を妹のように可愛がっていた。 「なんだい、望ちゃん」 こちらに歩み寄ってくる望に笑って答えると望は右手を上げてだぼだぼの服をひらひらさせた。 「楊ゼンはー太公望と付きあってるでしょー?」 太公望とは望の兄弟子の事だ。 「ええ、そうですよ。それが何か?」 にこにこ笑って楊ゼンが答えると望は挙げたままの手をくるくる回した。 「貴方はー愛情表現をおおっぴらに出す人だと思うのー。でもー太公望ははっきり言って照れ屋さんだと思うのー。相手がー言葉くれないって不安なものなのー?」 望の問いに楊ゼンは軽く笑みを乗せて答えた。 「別に不安じゃないよ。だって言葉に出なくても態度に出てるからね。あの人が照れ屋って分かってる以上無理強いはよくないし」 望はそういうものなのー?とよくわからないといった感じだ。 楊ゼンはにこにこと笑って望を見つめる。 「望ちゃんは皆が好きだからね。誰か一人大切な人が出来たらわかるよ」 望は首を傾げて今度はそういうものなのー?と口に出して言った。 そういうものだよ、と楊ゼンが言えば望みはじゃあ質問を変えるわ、とまた右手をひらひらさせた。 「太公望はー、夜のほうでも控えめだと思うのー。貴方は不満じゃないのー?」 何処からこんなことを覚えたんだ、と頭を少々痛めた楊ゼンは軽く引きつった笑いをした。 最近の子供は怖い。望は別に子供でもないのだが切に思う楊ゼンだった。 「ねえねえー、どうなのー?」 望が早く答えろとでも言いたげな顔である。 楊ゼンは気を取り直して望に答えた。 「そりゃあ、たまには愛情表現をおおっぴらに出してくれてもいいけどね、あの人はあの人なりに僕に伝えてくれてるんだよ」 そう、太公望は伝えてくれる。 朝目が覚めたときに一番にいってくれるおはようは、とてつもなく可愛らしい表情で言ってくれる。 二人で視察に森を歩いているとそっと手を繋いできたり。 寒いから、と言って抱きついてきたり。 何か太公望にとって嬉しいことがあったらまず自分に言ってくれたり。 なにより。 自分の腕の中でだけ泣いてくれる。 「だからね、夜の方で控えめで構わないんだ。彼は僕を受け止めてくれるだけで十分なんだよ」 太公望にだけ見せるような楊ゼンの微笑はとてもやわらかだった。 望は納得したのかつまらないことを聞いたわねー、と満面の笑みで言った。 「ひとついい事を教えてあげるわー」 入り口のところにずっと太公望がいるのよー。 え、と一瞬かなり動揺した楊ゼンを放って望は謁見の間の方に歩いていく。 望の気遣いであることに気付いた楊ゼンは言われたとおりの場所で太公望の気配を感じた。 きっと赤い顔で座り込んでいる。 ああ、そうだったら立ち聞きは趣味が悪いですねとでも言ってキスしてしまおう。 そして彼を抱き上げてもう一度可愛らしい唇を塞いで好きですとでも言おうか。 「太公望師叔」 入り口にいたのは真っ赤な顔で座り込んでいる可愛らしい僕の恋人。 |
香月紫蘭サマから頂きましたv
とっても可愛い寒中お見舞い小説です^^
望ちゃんと師叔が同時に存在する世界v
望ちゃんにのろけちゃう王子がいいですね。
しっかり聞かれているとも知らずに・・・フフv
最後から4行目の文がかなり好きです。
そのとおりに師叔は真っ赤な顔で座り込んでますし素敵^^
楊ぜんの優しさにかなり心ときめかせて頂きましたv
素敵な小説を有り難うございました!