出逢った頃より ずっとずっと君が好き

 

 

++ピンク++

 

 

 

「う〜〜眠ぅ・・・・」

寒かった冬もどこかへ消え、暖かい風が桜の花を散らす麗らかな春の日。
生徒会室の少し開けた窓のすきまからも、カーテンを揺らし穏やかな風なんかが流れ込んでくる。

心地よい。

どう考えても寝てくれと言わんばかりの陽気に素直にしたがい、
太公望は今までやっていた「生徒会による新入生の心得12ヶ条」のプリントのまとめを放棄して
眠りにつこうと机の上に突っ伏そうとした。が。

「望・・・・まだ始めたばかりなんですから。寝ないでくださいよ」

完全に寝る体制にはいっていた太公望に横から声がかけられる。
その内容は自分を咎めるものであったが、たぶん本気で怒ってはいないだろうと、太公望は思う。
こんな心地よい日に眠くなるのがわからなくもないらしい。

「だって仕方ないであろう楊ぜん。春の陽気がわしを夢の世界へと誘うのだ〜」
そして今度こそ上半身を机に沈める。
「またわけわからないこと言って・・・」

だらだらとしている太公望に苦笑しながらも、忙しくペンを動かし仕事を進めてゆく楊ぜん。
しばらく太公望は、規則正しく紙の上をすべるペンの動きを机に頭を預けながら見ていたが、はたとなにかを思い出した。

「のう、一つ聞きたいのだが」
「なんですか?」
「何故に春休みにまで学校に来てわしらはこんなことをしとるのだ?」
プリントをひらひらさせながら問いかける。
「生徒会とはそう言うものですよ。新入生のために色々準備しておかなければならないことがあるんです」

ここ私立封神高校は、県下でもかなり有名な進学校だ。毎年この学校を受験する者はかなりの数人になる。
新入生の数も多く、入学式やら学校案内のプリント作りやらなんやらで生徒会は大忙しなのだ。

「むぅー・・・では何故生徒会長である姫発がここにおらん?」
「さぼりですよ。だから僕たちが今ここにいるんです。だいたい仕事を春休みにまでやらなくてはいけなくなったのは
いつもさぼっていた彼のせいだというのに・・・。この仕事だって本来会長がやるはずのもだったのですよ」

机に散らばっている無数のプリントに目をやりながら楊ぜんは不機嫌そうに言う。
しかしすぐ後、その不機嫌そうだった顔をゆるめ机に突っ伏したままの太公望に微笑みかける。

「でも、そのおかげで休みの日でもあなたとこうして毎日のように会えるのですけど」

楊ぜんは優しく太公望を見つめながら、幸せそうに笑みを深めた。

どきっ。

太公望は突然早くなる自分の鼓動を自覚する。
いつもいつも思う。楊ぜんの笑顔は少々心臓に悪いと。

「わ・・・わしは休みを堪能したいのだが・・・のぅ」

見つめられることが恥ずかしくなって、くるりと顔を楊ぜんからそむける。
だけど赤く染まっている耳だけは隠せなくて。
楊ぜんはそんな太公望の反応の可愛らしさに笑みをさらに深いものにした。

「望。もう少ししたら一度休憩しましょう。だからそれまでがんばってくれますか?」
「・・・・・・・・・うむ」

そんな優しくいわれたら嫌とは言えんであろう・・・・。
太公望はいまだ赤い顔を机にうずめながら、楊ぜんには聞こえないように小さな声で呟いた。

 

 

 

「ふーー!終わった」

今まで向かっていた机から勢いよく顔をあげ、イスの背もたれに体重をあずけて大きく伸びをする。
楊ぜんに言われてあのまま素直に仕事に集中すること30分弱。
太公望は新入生の心得とかいうプリントを見事まとめ終えた。

「お疲れ様です。僕の方もちょうど終わったところですし、休憩にしましょうか」
「うむ!さ〜て昼寝じゃ昼寝♪」

まってましたと言わんばかりにさっそく眠る体勢にはいる太公望。
そんな太公望にくすくすっと笑いながら、楊ぜんも一緒に休憩をとることにした。

 

春の風が頬を撫でる。まだ初春であるのに外の気温が高いおかげで室内もぽかぽかと暖かい。
昼寝をするには最高の環境。
しかしその素晴らしい空間にいながらも、太公望はまだ眠りにつけないでいた。

「・・・・・・・・・・・・・楊ぜん」

つむっていた目をぱかっとあけ、自分が呼びかけた相手に視線をやる。
頬づえをつきにこにこしながらこちらを見ている楊ぜん。
はぁ〜とひとつため息をこぼして太公望はがばりっと体を起こし、笑顔の相手に一気に捲し立てた。

「なんですかではない!どうしてずっとわしのほうばかり見ておるのだ!?目線が気になってゆっくり寝れんであろう!」
「だって・・・あなたの寝顔が可愛いのがいけないんです。ずっと見ていたくてついつい目がいってしまうんですよ」
にっこりと微笑み、そしてまた愛しい恋人に柔らかい眼差しをむける。

「ぬぅ〜・・・・・・・」

楊ぜんのそういう笑顔に弱い太公望はもはや悔しそうに唸るしかなかった。

「・・・・・こうなったら・・・」

イスから立ち上がって楊ぜんのところまでトテトテと歩いていき、後ろにまわりこむ。
「?なん・・・・」
「えいっ!!」

両腕をまわし、太公望は思いっきり楊ぜんに抱きついた。
そしてぎゅうっと力いっぱい抱きしめる。
「望?」
「抱きつきの刑だ!」

けれど、もともと力のない太公望にそうされても楊ぜんは苦しくもなんともない。
逆に自分にとって非常に嬉しい状況だ。

ぎゅうっとさらに抱きしめられる。

太公望のなんとも可愛らしい行動に楊ぜんの顔には笑顔が絶えない。
こんなことしても僕を喜ばせるだけって、わかっているのだろうか。
たぶん・・・・・・・・全然わかってないんだろうなぁ。

嬉しいだけの抱きつき攻撃をうけながら、そんなことを考えてくすっと笑う。
「なにを笑っておる。わしは怒っておるのだぞ」
しかしそう言う太公望もクスクスと楽しそうに笑っている。
本当に怒っているわけではなさそうだ。

楊ぜんは自分の胸にまわされている細い腕をそっとはずすと、イスごと太公望のほうに向きなおり
その小さな身体をひざの上にのせて今度は自分のほうから抱きしめた。
太公望もまた楊ぜんの背中に腕をまわす。

「なんか今日はサービスしすぎじゃないですか?望」
「春の陽気のせいじゃよ。気持ちが良いからわしの気分もよいのだ」
「ふふっ。春に感謝ですね」

冗談っぽく言いつつ、太公望の美しい朱色の髪を優しく梳く。
窓から流れ込んでくる風に自分の髪も梳かれるのを感じながら。


なんて穏やかで 心地よいひととき。

思い出す。あの日もたしか穏やかな風が吹いていた。

「ねぇ、望。僕があなたに告白したのもこんな日でしたね」
今日と同じ、桜が舞い散る一年前の春の日。
「・・・・・・・・そ、そうだったかのう」
とぼけたつもりなのだろうけど、その頬はかすかに染まっている。
その日の出来事を思い出したのだろう。
そんな太公望に微笑みながら、視線を窓の外に移して楊ぜんは続ける。

「ホラ、あそこに見える桜の木の下で・・・・・・。僕の突然の告白をあなたは受け入れてくださった。
・・・・・・・・本当にすごく嬉しかったです」

気持ちを告げたのは一年前の入学式。

舞い散る花びらに引き寄せられるよう桜の木に近づいた時、一人の少年と出逢った。
真っ直ぐに桜を見つめる姿と見つめる瞳がとても綺麗で、印象的で。
視線をそらすことができなかった。

満開の桜よりも自分を魅了する少年をそのまましばらく見つめていると
気配に気づいた少年がこちらを振り向いた。

交差するのは蒼と碧。

自分だけに向けられた瞳の美しさに一瞬で恋に落ちた。
そしてそれを自覚するとともに、いつのまにか想いを言葉にのせている自分がいた。

 

「お互いがお互いに一目惚れなんて、珍しいと思いません?」
「初めて会って会話もしとらん相手に好きだというやつのほうが珍しいわ」
「あなただってそうじゃないですか」

一目で恋に落ちたのは楊ぜんだけではなく太公望も同じだった。
だから出逢ったその日に二人は恋人同士になった。
相手のことは何一つ知らないまま、その瞳にだけ惹かれあって。

「でも僕はあの時告白したことを後悔していません。結果的にあなたを手に入れることができたし
付き合いだしてますますあなたのことが好きになりました」
「ほほう?」
ピッタリくっついて抱きついていた身体を少し離し、楊ぜんの顔を見る。

「気まぐれなところとか、すぐムキになるところとか、さぼりグセのあるところとか
そのくせやるべきことはちゃんと成し遂げる責任感の強いところとか、全然素直じゃないところとか
時々こうやって甘えてきてくれるところとか、出逢った頃にはわからなかったあなたのことを知るようになって・・・・
最初に会ったときより一年前の春よりなにより、好きになりました。あなたのことが、ずっとずっと」

「は・・・・・・恥ずかしいことを言うのう・・・・・お主」

楊ぜんの話を初めは相手の顔を見て聞いていた太公望だったが
直球すぎるその告白に耐えられなくなり、頬を染めてうつむいてしまった。

とても可愛らしい姿を目にしながら、楊ぜんは先程のセリフに”恥ずかしがりやなところとかも”
と心の中で付け足しておいた。

「だって本当のことですから。望、あなたはそうじゃないんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「望?」

そっぽをむいてしまっている太公望の顔を覗き込んで、もう一度問いかける。
でもきっと答えてはくれないのだろうけど。この人が素直じゃないのは承知の上だ。
苦笑して、諦めて顔を離そうとしたとき、ふいにぐいっと髪をひかれた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すき」


なによりも心を奪った瞳に自分のそれを合わせ、見つめたまま楊ぜんの唇に軽く触れるだけのキスを送る。
そっと触れあった唇を離し、にっこりと微笑んで、両腕を今度は首にまわし抱きしめる。

「・・・・・・・・ううん。大好きかも」

出逢った頃よりずっと好き
笑った顔が本当に綺麗だとか、囁く声がとても優しいだとか、自分を包み込んでくれる腕は以外と逞しいだとか
今ではその全部を知っているから。

しばらくはそうやって楊ぜんを抱きしめていた太公望であったが、なんの言葉も反応も返してこないことに不安を感じて
少し距離をとり、そうっと相手のほうを覗き見る。

「なっ・・・」

映ったのはめずらしく顔を真っ赤にした恋人。

こんな楊ぜんは初めてだ。
太公望は普段見ることのない反応に戸惑う。

「楊ぜん・・・・・・?」
「あ・・・・いえ、ごめんなさい。・・・・・その・・ちょっとビックリして・・・」
赤い顔を隠すように口元を手で押さえながら言う。
「おっ・・お主が聞いてきたのであろう!せっかく気分が良いから言ってやったのに・・・!」

つられるように太公望の頬もだんだんと染まっていった。
じたばたとひざの上から降りようと暴れるが、すごく幸せそうな微笑みをうかべる楊ぜんに動きを止める。

「嬉しいです。本当に・・・・春に感謝ですね」
「まったくだ」

 

 

春がくるたび

きっとこれからもまた知らない君をたくさん知る。

 

 

 

恋が桃色に染まってゆく・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+END+

 

あとがき

これはお友達記念として「little fredy」の桜珠ちゃんにお送りさせていただいた駄文です。
リク内容は・・・・
「楊太でパラレルで甘々」だったんですけど・・・・・・・・・・(−−;;
楊太はクリアできたと思うのですが(当たり前だ)パラレルと甘々がどうも・・・・。
「別にこれパラレルにする意味ないやん」的な話の内容になってしまいましたぁ〜!!
甘々なところは抱きつきの刑くらいでしょうか。
あとは、ひざ抱っことか・・・(どうも私は師叔をひざの上に乗せるのが好きなようです)
こんな駄文の唯一の私のお気に入りは題名ですvいや、題名だけというのもどうかと思いますが;;
う〜・・・こんなものでも受け取ってくれた桜珠ちゃん!ありがとう〜vvv
これからも仲良くしてくださいね☆

 

 

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