ハンド・パワー

 

 

「師叔、なんだかイライラしてます?」

「べつに」

「どうしたんですか?」

「・・・べつに」

ずっとべつに、の繰り返しのわしに、楊ぜんは肩をすくめて溜め息をつく。
それにもっとイライラして、何かもうどうしていいかわからない自分がいた。

ホントにべつに。意味なんてないのだ。

ちょっと朝起きるとき、目覚めが良くなかったとか。
寝癖がなおらないだとか。
イライラの原因は、こんな小さな理由だった。

でも時間が経つにつれ、その小さな理由も忘れてしまった。
ただただ、意味もなくイライラが増えていく。
こんなの、子供みたいだ。

 

「機嫌直して?」

ぽんっ。

よしよし。

何かが自分の頭に乗ったかと思うと、小さな子供にするように優しく撫でられた。
大きな手のひらが、髪に触れ、何度も何度も撫で続ける。

楊ぜんを見れば、いつまでも拗ねているわしに呆れた様子もなく、ただただ笑顔で。
大人だな、と思った。
けれど、そうそうすぐには態度が変えられない素直じゃない自分。

頑なな態度を取り続けることに無意味さを感じても、どうしていいかわからない。

そのうち、頭を撫でていた楊ぜんの手が離れて、今度はきつく握られていたわしの手を掴む。
不思議に思って思わず顔を上げると。
やっぱり楊ぜんは笑顔で、握られているわしの手のひらを解き、自分のそれと絡め合わせた。

 

握ったり。合わせたり。包んでみたり。

 

楊ぜんの大きな手のひらは、心地良かった。
手と、手をくっつけ合わせただけなのに。

こんなに気持ちがいいものなのか?

大きな手のひらを、小さな手できゅっと握り返してみる。
何も言葉はないけれど、楊ぜんが嬉しそうに微笑んだ。

さっきまでのイライラが、嘘のように消えている。
やっぱり、お主はスゴイな。

 

「・・・・・・・ゴメンナサイ」

「どうして謝るんですか?」

 

ああ。

手から伝わるアンシンカン。



よくあるじゃないですか。
母親の手を握ると安心するってやつ(笑)
お母さん的存在な王子vv(ダメじゃん)