我が侭な僕の君。



権力ハニー





1.楊ぜんの場合。


真夏の太陽に頭をがんがん照らされながら楊ぜんは自動販売機の前に佇んでいた。
今日は久しぶりのデートで商店街の福引きで割引券が当たった遊園地に太公望と二人で来ていた。
しかし遊園地に誘うのがまた大変で。
暑いだの面倒くさいだの愚痴る恋人を何とか口説いて強引に連れてきたのだ。


最初はうだうだ言っていた太公望だったが目的地に着いた途端元気になり
あれやこれやと乗りまわってご機嫌は良くなってくれた。
そんなはしゃぐ可愛い恋人が見ることができただけでも満足で
子供のような勢いで次々と乗り物を制覇していく太公望に
楊ぜんは体力の限界と戦いながら付き合っていた。


「うーん・・どうしよう」


自動販売機に並ぶジュースの缶を一通り眺めて、楊ぜんは困ったように呟やく。
『のどが渇いたのだ』
さすがの太公望もこの真夏の太陽には勝てなかったらしい。
走り回ったぶん身体の水分の奪われかたが激しくついにダウンしてしまった。
自分も大概疲れていたが楊ぜんは日陰にあるベンチに太公望を座らせてから
冷たいものが飲みたいと言う望みを叶えに自動販売機に向かい、今に至る。


確か桃のジュースがいいと言っていたのだが、この販売機にはどうやらない。


「師叔、嫌いなものだと絶対飲んでくれないからなあ・・」


照りつける太陽を出来るだけ片手で遮りながらサイフから千円札を取り出す。
我が侭な彼の恋人は嫌いなモノだと一口も口につけもしないのだ。
もし買っていったジュースが嫌いなものだとしたら、また機嫌を損ねてしまうかもしれない。
楊ぜんは神頼みしつつ千円札を入れた後に全てのボタンを同時におした。
どうかあの人が気に入ってくれそうなのが出ますように。
そんなことにも気を使ってしまうあたり相当自分はあの恋人に弱いらしい。







「あの師叔、観覧車にでも乗りませんか?」


隣で不機嫌そうに歩いている太公望におずおずと声をかける。
頭一つ分くらい違う身長差に、ちょっとかがんで顔を覗き込むとやはりそこにはムスッとした顔。
どうやら神はいなかったらしい。
買っていった全てのジュースは太公望のお気には召さなく、結局機嫌を損ねてしまった。


「いやだ。あんなただくるくる回ってるだけのものなどつまらぬではないか。
それにさっき見たらすごく並んでおった。日焼けするからいやだ。」


ご丁寧に2度もいやだと繰り返し太公望はあっさりと楊ぜんのご機嫌とりを無視する。
確かに太公望の白い肌を日に焼かせるのは避けたいけど。
楊ぜんは心のなかでこっそりため息を吐いて前に向き直ったが
くいっと袖を引かれてまた隣の恋人を見た。


「師叔?」
「アレにしよう!そんなに並んでおらぬし。次はアレがいい」
「あれ?」


もうすでに楊ぜんを引っ張ってアレに向かう太公望の指さす先を見ると、そこはお化け屋敷。
連れられるがままになっていた楊ぜんはくすっと笑う。
太公望の機嫌が直ってきたことも嬉しかったが、なにより。







「ぎゃあっ!!よ、よーぜん、今なんかわしの顔にあたった〜;」
「大丈夫ですよ。ただのこんにゃくですって」
「わっ!ななな、なんか踏んだぞ??」
「くすっ・・師叔、僕の足踏んでます」
「あっ・・す、すまん・・・って、ぎゃぁぁ!!!」


ちょうど角を曲がろうとしたとき、黒い布に包まれたお化けが前方から飛び出してきた。
太公望は悲鳴をあげて隣の楊ぜんに必死に縋り付く。
お化け屋敷に入ろうなどと言ったものの。実のところ太公望はかなりの怖がりだった。
しかし意地っ張りな性格のためか、遊園地に来ると必ずお化け屋敷に入ろうと言う。
そのたび抱きつかれたり、怖がる可愛い太公望を見ることが出来るのだから
楊ぜんにとって嬉しいことこの上ない。


「ほら師叔。もう怖くありませんから・・・顔をあげて?」
「・・・・お化け、もうどっか行ったか・・・?」


太公望は恐る恐るといった感じで顔を上げ辺りを伺う。
それでもぎゅっと掴んだ腕は離してくれなくて、そんな事がすごく嬉しい。
楊ぜんは涙が溜まっている瞳を人差し指でそっと拭い、優しく太公望の柔らかい髪を撫でる。
いつもは我が侭な恋人に振り回されっぱなしだけど。
怖がって自分を頼って来てくれるこんな時だけ強気になれる。
ずいぶん情けないなぁとは自覚しているが、惚れた弱み。仕様がないのだ。


「ホントに怖がりですね師叔は。怖いのだったらこんなトコロ入らなきゃいいのに」
「わ、わしは怖くなどないぞ!!お化け屋敷など全然平気じゃっ」
「ホントに?じゃあ離れて歩いても平気ですね」


スッと太公望が掴んでいる腕を引こうとするが、ぎゅっと捕まえられて阻まれた。
それに微笑み、楊ぜんは離れないよう必死に自分の腕を掴まえる張本人を見る。
からかうように意地悪く微笑んでやれば悔しそうな恋人の声。


「うるさいのう!!」
「僕は何も言ってませんよ」
「うるさいうるさいっ!
・・・良いか楊ぜん絶対わしから離れるでないぞ!もし離れたら別れてやるからなっ」
「何もそこまで言わなくても・・・・はいはい分かりました。絶対離れませんから」
「はいは一回!」
「・・・ハイ」


楊ぜんはくすくす笑いながら、照れなのか悔しさからなのか真っ赤な顔の太公望の手をぎゅっと握る。
すぐさま握り返される感覚に更に笑みを深くし
楊ぜんは小さな手を引いて出口に向かって歩き出した。


いつもこんな可愛い我が侭だったら大歓迎なのにね。








「ソフトクリームが食べたい」


怖がって離れるなと可愛い事を言っていた太公望は何処へやら。
お化け屋敷から出た途端、暑いとかいって繋いでいた手を剥がされた。
そしてこのお言葉。
さすがの楊ぜんも太公望の態度に少々呆気にとられたが
小さな可愛い耳が赤いのを見て思わず微笑んだ。
日焼けする〜と早足で日陰に移動するその表情はしかめっ面ながらもきっと真っ赤なのだろう。
可愛い恋人の照れ隠しを尊重してあげよう、と楊ぜんは苦笑しながら売店に向かった。


「う〜〜んvv美味いvv」


嬉しそうにソフトクリームをペロペロ舐める太公望の姿はまるで猫みたいで、自然と顔が緩む。
楊ぜんは自分の分のソフトクリームを食べることもそこそこに、そんな可愛らしい姿を見つめていた。
しばらくして夢中で食べていた動きがとまり太公望が顔を上げる。

「楊ぜん。ちょっとトイレ行ってくるからコレ持っててくれぬか」
「いいですよ」


手渡されたソフトクリームはもう半分以上なくなっているものの
真夏の太陽の力で少しずつ溶け始めていた。
なるべく早く太公望が戻ってくることを心配して間もなく、お待たせっと明るい声が聞こえた。
それに振り向きつつふっと、楊ぜんの中に悪戯心が芽生え
ソフトクリームを受け取ろうと差し出された手に太公望のものではなく自分のものを手渡す。
関節キス、とかいって喜ぶ歳でもないのだが相手が太公望なら別。
楊ぜんはらしくもなくにやける顔を抑えもしなかった。・・・が。


「ぬぉっ。なんじゃコレ〜!溶けておるではないか・・・!」


楊ぜんが心配した通り、ソフトクリームは灼熱の暑さに溶かされて
太公望の右手をべとべとにしていた。
楊ぜんはすぐさまハンカチを差し出すがその前に。


「もうこんなのいらんっ」


太公望は差し出されたハンカチを綺麗に無視して。
近くにあったダストボックスにソフトクリームをそのままポイッと捨ててしまった。


・・・・・ぁぅ。


そんな言葉が漏れた。








日も傾きはじめ真夏の太陽が夕日に変わりだす時間。


「師叔そろそろ帰りましょうか・・・・師叔?」
「ん・・・・・むぅ・・」


たくさん動き回って力を使い果たしたのだろう。
太公望は眠そうに目をこすって楊ぜんの肩に身を預けてきた。
しょうがない人ですね・・と苦笑しながら楊ぜんは本格的に眠りだした太公望をおんぶする。


「まったく師叔ったらまるっきり子供なんだから・・・・」


呆れたように呟いて、背中越しに聞こえる小さな寝息に微笑みを零す。
子供で我が侭で、この人のどこが好きなのかと問われればちょっと考えてしまうかもしれないけど。
でも結局そんなところが可愛いから好きなんだろうな。


「ん〜・・・よーぜん・・・」
「はいはい」


太陽よりもずっとずっと。
我が侭な可愛い大切な恋人を熱く熱く愛してる。

























2.太公望の場合。


夜は負けてやっておるのだから我が侭ぐらい良いではないか。
昼間くらい主導権にぎらせろ!!








だそうです。














end

 

 

望ちゃんがひたすら我が侭です。
最初は楊ぜんを権力ハニーにしようと思ったんですが、それじゃ可愛くないだろう・・
ってことで急遽変更。それに楊ぜんはハニーではなくダーリンだし♪(アハハン♪)
今更ですが。
このブリトラ小説はブリトラの曲をそのまんま文章にしているだけと言っても過言ではありません;
その曲から感じたこと・・・やら曲に込められた想い・・・やらそんなのではなくて。
ブリトラは曲自体面白いんだからそのまんま行こうやっ!!
・・・そんな素敵で不純な私のココロがこもっているので(死)絶対シリアスには発展しません。
ってかしませんでしたね;
とりあえずブリトラ小説はあと1本で終了!
シュプレヒコールもいよいよ(というほどのものでもない)最終回。
次へ急げ〜。




権力ハニー song by BRUEF & TRUNKS

 

 

ノベルTOPに・・・・・さぁ君も(謎)