変だな・・・・変だな。
Love
Holic 1
今日は天気のいい日曜だったからわしの機嫌はすこぶる良かった。
傍らにラジオを置いて、流れてくる洋楽を口ずさみながら、ため込んだ洗濯物をぴんっと伸ばして干していく。
ニュースを見ながら朝食をとり、後かたづけも珍しく丁寧にやる。
ぴかぴかに磨いた皿に満足げに笑ってから、わしは鼻歌混じりに時計に目をやった。
「10時か・・・これだけ仕事をしてこの時間、やっぱり早起きは良いのぅv」
うんうん、と自分に感心してにこりと笑う。
時間はたっぷりある。今日はどうしようか?
ショッピングを楽しむにはお金がないし、家の中でゴロゴロするのは何となく勿体ない。
結局わしは昼食の買い物がてら散歩することに決めた。
確か近くにいい場所がある。
住んでいるアパートから2〜3分歩いたところに、その公園はあった。
日曜の公園は思った通り人で溢れている。
遊具で遊ぶ子供とおしゃべりを楽しむ奥様方等々。
ペットと戯れる者もいた。
ここは犬の散歩コースにももってこいなのだ。
「ん〜・・いい天気だのぅ」
ベンチに腰掛け、上を見上げる。
陽の光は木々に丁度良く遮られ、隙間から秋晴れの空が覗いていた。
朝の涼しい風が髪を撫で、心地よくてわしはゆっくり目を閉じた。
家から一冊持ってきた本でも読もうかと思ったが、取りだした瞬間何かにのし掛かられて思わず取り落とす。
「のわぁ・・!な、何だ??・・・・犬?」
「ばうわう♪」
相変わらずのし掛かられたままで視界は遮られていたが、それは確かに犬だった。
じたばた抵抗してみても、犬は嬉しそうに顔をぺろぺろ舐めるだけで一向にどいてはくれない。
白い大きな犬。毛並みも相当いい。
もともと結構動物好きだったりしたので、こんな風にじゃれつかれても平気だが。
ふわふわの毛を撫でてやればより一層しっぽが嬉しそうに振られて、わしは思わず笑ってしまう。
でもそういえばこやつの飼い主は一体何をやっておるのだ?
「のう、お主のご主人様はどうし・・・」
「哮天犬っ!離れなさい!」
その声に犬はあっさりわしを離れて、行儀良くお座りをする。
躾も完璧だのう・・と感心しながら、飼い主であろう人へ視線を移して、わしは不覚にも固まってしまった。
「すいません、大丈夫でしたか?どこか怪我は・・・」
「・・・・・・」
「・・・あの?」
「・・い、いや大丈夫だっ、何ともないよ」
「そうですか、よかった」
ホッとしたように目の前の男は微笑んでみせた。
わしはただただその姿に見とれてしまっていた。
腰まで伸ばした蒼いさらさらの髪と、恐ろしいほど整った綺麗な顔。
どこからどうみても、100人中100人がいい男だと言い切るような、そんな男だった。
「本当にごめんなさい、哮天犬もいつもはこんなことしないんですけど・・・あなた気に入られてしまったみたいですね」
「ばうっ♪」
「気にしておらぬよ。ほぅ、お主哮天犬というのだな」
よしよし、と頭を撫でてやると気持ちよさそうに擦り寄ってくる。
飼い主に似て綺麗な犬だ。可愛いのぅ。
今日は本当にいい日じゃな。
綺麗な男は拝めたし、犬は可愛いしいい天気だし、早起きは三文の得とは良く言ったもんだ。
「よくこの公園には来るんですか?」
「うむ、お主もか?」
「ええ時々。時間があるときにこうやって哮天犬の散歩にくるんですよ」
「わしは本を読み・・・・・ってそういえば本・・・あ!」
「ばう?」
視線の先には、先程哮天犬にのし掛かられた時に取り落としてしまった本。
見事に水たまりに浸かっており、どろどろになっていた。
そういえば先日大雨が降っていたから、その時に出来た水たまりがまだ残っていたのだろう。
「あぁ・・・高かったのに・・・・」
駆け寄って拾い上げる気力もなく、ただただ眺めてしまう。
さっきまでの上機嫌は一気に急降下。
くそぅ!どこがいい日じゃ!
かと言って、ばう・・と擦り寄ってくる哮天犬を責めるわけにもいかない。
こやつは何も悪くないのだ。
「あの・・・・宜しければ僕の家に寄って行きませんか?」
「・・・は?」
「あれと同じ本うちにあるんですよ。お詫びも兼ねてプレゼントさせてください」
「え!よ、よいよ、悪いではないか」
いくらわしでも、さっき会ったばかりの人にそこまでして貰うわけにはいかないと思う。
慌てて断るが、男は苦笑して言い募る。
「それでは僕の気がすみません。哮天犬ももっとあなたといたいと言ってるみたいですし、ね?」
「ぬ〜・・・・」
多少強引に納得させられ、(にこりというやたら綺麗な笑顔も原因だが)わしは申し出をこくりと頷いて承諾した。
考えてみればこんないい話はないし。
やっぱり今日はラッキーだのう。
「そういえばお名前まだ伺ってませんでしたね」
「わしは太公望じゃ」
「僕は楊ぜん、よろしくお願いします」
「よ・・よろしく」
楊ぜんは柔らかくわらって、それから軽く握手した。
やっぱり綺麗な男が笑うと違うのう・・・とまたもや見とれてしまったではないか。
哮天犬が足に擦り寄っていたのにも気付かなかった。
初めて会った奴なのに、わしは変だ。
変だ・・・変だぞっ。
つづくー。
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