「わしを捕まえる事が出来たら考えてやらんこともない」






放課後テスト






眉目秀麗・才色兼備、頭脳明晰・容姿端麗、世間で自分の容姿はそう評されていた。
誰にでも優しく親切。表面上だけの振る舞いでもそれはそれは評判がいい。
そのおかげで人当たりも良く高校では生徒会長の役さえ任されている。

同じクラスで普通に話をするくらいには親しかった。
犬が好きだといえば、自分もだ!と結構気があっていたところもある。

もともとそう言うある程度の勝算があったから告白したわけで。




「・・・・はい?」

「だから」




放課後の夕日が眩しい校庭の一角。
間の抜けた返事をかえす楊ぜんに太公望はもう一度先程のセリフを繰り返した。

しかし未だによく状況が飲み込めないでいた楊ぜんにその言葉は届かない。
それもそのはず。仕方がない。

予想していた彼女の反応と言えば真っ赤になって俯くか、わしもだ・・・といって笑ってくれるか。
もしダメだとしても、すまなそうに微笑む姿。

こんな展開が待っていようとは。



「今からわしは学校中逃げ回る。それを捕まえる事が出来たらお主のこと考えてやろう」

人の気も知らずタッと駆け出そうとした太公望に楊ぜんは漸く意識を取り戻す。
慌てて細く折れてしまいそうな腕を引き、問いただそうと詰め寄った。

「ちょっと望!待ってくださいどういう事ですか!?」
「ちゃんと100数えてから探すのだぞ。ズルはいかん」
「そーじゃなくて!!」
「制限時間は30分」

強く腕を掴む楊ぜんの手を反対のてのひらで包み込み

「わしが好きならつかまえろ」

にっ。
一瞬その表情に気を取られた楊ぜんの隙をつき彼女は今度こそ駆け出した。

唖然として太公望の後ろ姿をしばし見つめ、楊ぜんはため息とともに軽い眩暈をおぼえる。

もしかしなくとも。





自分は太公望に試されている。


















出会いは至極簡単なものであった。

高校に入学して、同じクラスになって、たまたま隣の席で、二人でクラス委員を任されて。
あれよあれよと言う間に仲良くなり、楊ぜんのほうには恋愛感情までもが湧いて出てきた。
なにより太公望は楊ぜんを特別扱いしなかった。
それまで自分にとって恋愛など遊びでしかなかったけれど、今度は違う。
本気で好きになったのは初めて。







「さてと・・・・」

いつまでもこのまま突っ立っているわけにはいかない。
まして告白した相手に逃げられた後、居心地だってそれなりに悪い。
その割りに楊ぜんの心が軽かったのはまだ僅かなチャンスが残されているからだろう。

まずは校舎の一階。
太公望は確か校舎のほうに駆けていったハズだ。
手当たり次第教室を調べ廊下を走る姿は、普段彼を知る人々には想像も出来ないほど必死なものだった。
制限時間は30分。
楊ぜんは時計に目を向け、時間を確認する。残り25分。
一階は全て調べつくし、階段に足を一歩踏み出したところではたっと止まる。
そういえば4階建てのこの学校は、なんだか無駄に広かったことを思い出して楊ぜんは舌打ちした。

この学校は4階建ての校舎が1棟、2棟、3棟、そして今年新しく建て直した立派な体育館がある。
そんな広さをいちいち調べて回っていたのではとても時間内に太公望を見つけることなど出来ない。

「・・・これも計算のうちなのかなぁ・・」

そこまでして自分から逃げたいのかと思うと気が滅入るが、どっちにしろ諦める気はさらさら無い。
それにまだ振られた訳ではないし希望はある。
溜め息を吐く寸前でとめ、楊ぜんは取り敢えず太公望の行きそうな場所へ向かった。







保健室、体育館倉庫、裏庭と次々と調べてみたがいまだ太公望の姿さえ捉えられない。
いずれも彼女がよくサボる場所。
クラス委員としての自覚がない彼女に初めは腹立たしく思っていた。
同じクラス委員である楊ぜんがいつも太公望を探しに行く役目で。
いつのまにか探しにいくのが楽しみになっていた。
場所が場所だけに手を出しそうになったことも何度かあったけれど。
太公望の自由奔放な性格が好きだった。




(でも今はその性格のせいで学校中走り回ってるんですけどね)




裏庭からまた校舎にもどり時計を確認する。
残り10分。
あと探していないのは1棟のほうと屋上。
太公望は逃げ回っている、のだからもうすでに調べたところに行ってしまっている可能性もあるが、そんなことを言っていたら埒があかない。
取り敢えず1棟のほうに移ろうと、楊ぜんが渡り廊下に差し掛かったとき。
よく見慣れた赤みがかった髪が目の端に映った。

「望っ!やっと見つけましたよ!」
「ぬおっ!!意外と早かったのう楊ぜん、さすがじゃっ」
「さぁ、もう観念して頂きます!!」
「そうはいかぬっ」

腕を伸ばし、あと少しで捉えられるというところで太公望はするりとすり抜け、階段を駆け上がっていってしまう。
逃げ足の早さに楊ぜんは舌打ちし、同時に感心もしてその後を追う。
その後も後一歩というところまで追いつめるのだが、全部軽くかわされてしまった。
残り時間が気になり、楊ぜんが時計に目をやろうとしたとき。
階段の一番上に駆け登った太公望が、ぱっと階下の楊ぜんを振り向く。

「お主わしのこと本気なのか?」
「何を今更・・・好きじゃなきゃこんなことに付き合ったりしてません!」
「・・・・・・でもあと5分じゃっ」

話ながらも階段を上りじょじょに距離を詰めて、まさに捕まえようとする寸前。
ちょっと頬を染めた太公望がにやっと笑ったと思った瞬間、彼女はひらりっと手すりを乗り越え下に飛び降りた。
楊ぜんが危ない!と思った時にはもう太公望は廊下を走りだしていた。

「やっぱり一筋縄ではいかないか・・・」

とんでもない行動をさらりとやってのける太公望に苦笑する。
それでもやはり脚は走り出していて、自分の気持ちを信じてもらう為に追いかけていた。





「あ、天化くん!望見なかった?」
「え・・・い、いやぁ〜・・・俺っちは別に・・」

確かに太公望はこちらに来たはずで、今ここにいる天化が見なかったはずがない。
お人好しの彼のこと。太公望に口止めされているのだ。
本来なら自分だけの力で探したいところだが、今はそうは言っていられない。
あと1分。

「君が煙草を吸ってること、今度の職員会議にかけさせましょうか?生徒会長の僕の言うことですからきっと教師は信じるでしょうねぇ・・・」
「わー!!わかったさ!師叔なら屋上のほうへ行ったさっ!!」

「こら天化!何をあっさりばらしておるのだバカ者ー!」
「望!!」

階段の隅に隠れていたらしい太公望が、自分を裏切った天化に怒鳴ってそのまままた逃げ出す。
一応天化にお礼を言い、楊ぜんは階段を駆け上がっていった。
この先はもう屋上しかない。





バタンッ!





屋上の扉を乱暴に開け、辺りを見回す。
けれど太公望の姿はなくどこかに隠れてしまっていた。
楊ぜんは少し思案した後、ふうっと息を整えて。
辺りを探すでもなくぽつっと呟く。




「ぴんくのチェック・・・でしたっけ?」




残りあと1秒。


「お、お、お主見たのか〜〜!!!?/////」


思わず叫んでしまった太公望がハッと口に手をやるがもう遅い。
逃げようとしても、その腕は今度こそ楊ぜんに捉えられてしまった。

「捕まえたv」
「・・・・・・・・お、お主・・・・いつ見たのだ」
「え?さっきあなたが階段の下に飛び降りたときですよ。ああいうことするならちゃんと短パンとかはかなきゃ。まぁ僕は望の可愛いおしりが見られてラッキーでしたけどv」
「うるさいうるさいっ///お主なんか嫌いじゃ!」
「それはないですよ望・・・やっとあなたを捕まえたというのに」
「ひゃっ」

掴んでいた腕を強く引き、楊ぜんは太公望の身体を抱き締める。
いきなりのことに反応が遅れた太公望だったが、今の状況を理解した途端、離れようと楊ぜんの胸をぽかぽか叩く。
しかしそんな可愛らしい攻撃でひく楊ぜんではない。
抱き締める腕は一旦離し、それでも両手は太公望の肩に添えられ。

「あなたが好きだから、捕まえました。あなたの答えは?」
「・・・わしは・・・考えてやる、と言っただけだ」
「じゃあ今考えてください」
「好きじゃよ?」

なんだか信じられないような言葉を聞いて楊ぜんは一瞬固まる。
太公望はそんな目の前の男を面白そうに眺めていた。
しばらく固まっている楊ぜんを見ていた太公望だったが、いい加減飽きてきて袖をくいくいっと引っ張る。
ハッと我に返った楊ぜんは勢いよく太公望に抱き付いた。

「よ・・・楊ぜん苦しいぃ・・・・!」
「だってっ!え?好きってでも・・・えぇ!?嬉しいんですよ〜!もう離しません!!」
「・・・・こ、こんな事なら試す必要なかったかものぅ・・・」
「え?」

抱き締められる力が弱まった隙に太公望は楊ぜんの腕の中から逃げ出す。
苦しそうな背中をさすってやりながら、楊ぜんは今言った太公望の言葉を考えていた。

「ねえ望。どうして僕のこと、こんなふうに試したりしたんです?」
「・・・・信用ないからじゃ」
「えぇ!」
「だってお主は・・・格好良いし・・・・」

だんだんと気の強い声は小さくなっていき、太公望はぷいっと顔を逸らす。
その頬が赤く染まっている。
それは夕日なんかではなくて。

「頭も良くて・・・モテるし・・・・昔は遊んでたって噂だし・・・」
「過去のことです」
「否定せんところがお主らしいのう;」
「今もこれからもあなただけですよ」

耳元に甘い声で囁かれ太公望の頬が一気に染まるが、それでも楊ぜんをキッと見上げて。






「・・・・でも気になるのだっ。・・・・わしだって・・・一応女なのだから///」






赤い頬と恥ずかしさで潤んだ瞳。
だから試した・・・。
そう言って完全に俯いてしまった仕草が可愛くて、楊ぜんはふわっと太公望を抱き締めた。
軽い抵抗はあったもののもう逃げ出したりはいしないらしい。
楊ぜんは喜んで太公望に微笑みかける。

「僕は・・・合格ですか?」

綺麗な笑顔にぽわっとしていた太公望は、問われて慌てて体裁を整える。
それにクスクス笑う楊ぜんにムッとして。
でもすぐに笑顔に変わる。

「ギリギリだったけどのぅ。合格にしてやるから感謝するのだぞ?」
「有り難う御座います」





キスにはまだまだ至らない合格点だけど。
手を繋ぐぐらいには充分だった。















end

 

死ぬほど遅くなりました;許してください〜。
霜月わかな様へ1500hitのリク小説。リク内容は↓
『楊ゼンの気持ち(ラブアタック?)にまったく気が付かない師叔
(そして楊ゼンを振り回す←ポイント)』
まったくリク内容から逸れた話になってしまいました・・・ダメだ私・・;
振り回すってところだけあっててもしょうがない(汗)
師叔が妙に乙女ですね。やっぱり乙女にはパン○ラがよく似合う・・・(死)
ってゆうか誰も女スなどと言ってないのに勝手に女スにしてゴメンナサイ><。