「今夜、お部屋に伺いますね」







いちご×いちご








「絶対ダ・メ・だ」
「どうしてですか!」

長い廊下ですれ違いざまに耳元へ囁き、スマートに決まった!と自画自賛しているところにすかさずお断りを入れられ、楊ぜんは勢いよく振り返った。
太公望はそれすら無視してスタスタと進んでいくが、進行方向をバッと楊ぜんに塞がれる。

「どうしてダメなんですか?僕が嫌いになりました?」
「そうではない。ただ読みたい本があるのだ」
「・・・昨日もそう言って断りましたよね、その前の日も」
「まだ読み終わってないのだから仕方ないではないか」

邪魔だとばかりに脇を通り抜けようとした太公望を、楊ぜんはなんとか押しとどめた。
もうスマートどころか情けない事この上ないのだが、この恋人を相手にして彼が勝てたことは一度もない。

「だいたい部屋に来てどうするつもりだ」
「野暮ですねぇ師叔・・・そんなのセック・・・・あいたっ!」

昼間の、しかも城の廊下で堂々と楊ぜんが破廉恥な事を言い終わる前に、太公望はその足を思いっきり踏みつけてやった。
ひどいとばかりに睨んでくる視線に、太公望は思いっきり呆れて溜息をついた。

「どうしてお主はいつもそうなのだ・・・・わしはそんな事積極的にしたいと思わんし、っつーかわしの身体の事を考えよ」
「充分考えてますよ。だから2日も我慢しましたし、そういう事をしたいと思うのは好きなら当たり前でしょう?」
「わしはしたいと思わぬ」
「じゃあ強姦しましょうか」
「別れるぞ?」

うっ・・・と詰まる楊ぜんに太公望は勝ち誇った笑みを浮かべた。
諦めたか?と俯いてしまった顔を覗き込む前に、楊ぜんは踵を返してスタスタと歩いて行ってしまう。
と思いきや、ピタッと止まり振り返ってきたので、太公望は首をかしげた。



「ぜーったい、絶対絶対行きますからね!!今夜絶対伺いますから!絶対行きますから!!」



恥ずかしげもなく大声で喚く楊ぜん。
あまりの情けない捨て台詞に太公望は肩を落とした。
これがあの天才道士かと思うほどの子供っぽさに呆れかえる。

「ダメだと言っておるだろう、このダアホッ!」
「アホで結構です!絶対に行ってやりますからねっ」
「来たら嫌いになるぞ・・・!」

切り札の言葉を出せば、楊ぜんは思いっきり不服そうに眉を寄せた。
予想に反して何も言わず去っていくその後ろ姿を見ていれば、廊下の近くを丁度天化が通りかかった。

「・・・・・楊ぜんが拗ねた・・・」
「いや、そんなこと俺っちに言われても・・・・」

間が悪いと言うか、運が悪いと言うか、その後数時間に渡り天化は太公望の愚痴に付き合わされたのだった。




















そして夜。

「これで大丈夫であろうっ」

太公望は扉と、おまけに窓にも鍵を掛けベッドの中に潜り込んだ。
楊ぜん対策もばっちりしたし、これからは読書タイム。

「今日はどれにしようかのう〜」

うきうきと本のページを捲りながら、目移りしてしまう本の内容に太公望は楽しそうに微笑んだ。
読書だというのにこのセリフはおかしいのでは、と思うのだが本が本だけにそうでもない。
太公望が読んでいる本は『楽しい心理テスト』であった。

これは2日前に女官から面白半分に借りたのだが、どうやらハマッてしまったらしく。
太公望は暇さえあれば心理テストを楽しんでいた。
けれど3日目ともなるとページもだんだん少なくなってきて、もう少しで読み終わってしまう。
残りのページを惜しそうにパラパラっと捲っていると、扉がかたんと音をたてた。

「楊ぜんか・・・?」

しばらく待ってみても返事はない。
気のせいだったことにして、太公望は再びベッドに潜る。
もしホントに来たとしても入れてやるもんか。

(来たりしたら一週間わしの仕事押し付けてやろうかのう〜あ、桃一年分買ってこさせるのもいいのう)

くっくっと笑いを押し殺しながら、扉や窓が小さく音をたてるたびにそちらを振り向く。
けれどどれも風の音で、いつまでたってもノックの音はなかった。
気がつけば、本は残りあと1ページ。



































「来んではないか・・・」



結局は期待してしまうのか。
太公望はパタンと本を閉じて腕にかかえ、裸足のまま部屋を抜け出した。
















ドンドンッ、ドンッドンッ



真夜中だというのにまったく遠慮のないノックに、楊ぜんは慌てて扉を開けた。

「ちょっ・・・誰ですか・・」
「わし」
「・・・・・・・・・・・え!?」
「邪魔するぞ」

突然やって来た太公望に楊ぜんは頭がついていってないらしい。
驚いている彼はほっといて、太公望は慣れた感じで部屋に入りベッドの中にもぞもぞと潜り込んだ。
そこでハッと気づいた楊ぜんは、おずおずとベットに近づきその端に腰を下ろした。

「お主さっきまで寝てたのか?布団があったかいのう〜」
「・・・師叔、本はもう読み終わったのですか?」
「んー・・もう少しで読み終わるぞ」
「嬉しいです・・・あなたのほうから訪ねてくださるなんて・・・」
「ちょい待ち」

ぎゅっと抱き締めてあまつさえ押し倒そうとする楊ぜんをかわし、太公望は一発鉄拳をお見舞いする。
殴られた頭をさすり、すぐに復活した楊ぜんは不満顔だった。

「・・・夜這いじゃないんですか?」
「馬鹿者。お主が嘘つきだからわしが来てやったのだ」
「・・・・・・」

かなり大きな矛盾に、楊ぜんは言葉の裏をかきまくって考えるが自分にとって都合のいい答えしか浮かんでこない。
ぐるぐると考えこんで首をひねったところで、楊ぜんは視界の端で本を見つけた。

「楽しい心理テスト・・・・?」
「ああ、せっかくだからお主の深層心理を暴いてやろうと思って持ってきた。意外と子供なところも最近わかってきたしのう」
「子供じゃないです」
「そーゆうところが可愛いのだよ。そういえばもう拗ねておらぬのか?嫌いになるって言ったから来なかったのか?」

腹が立つほど可愛いにやにや笑いでズバリと言い当てられ、楊ぜんは頬を染めて太公望を軽く睨んだ。

「心理テストなんてしなくても、もう充分あなたには僕のことわかってると思うんですけど?」
「いいから。ほれ、わしもまだコレやってないから一緒にやろう」

まだ読んでいない最後の1ページを指し、楊ぜんを手招きする。
敵わないなぁと苦笑しつつ、何もしないことを条件に楊ぜんはベットの中に入れてもらい太公望を引き寄せた。
調子に乗ってだっこまでしようとした楊ぜんは、予想通り今日2回めのパンチをお見舞いされた。
















『想像してください。あなたの前においしそうなケーキがあります。その上には3つのモノが乗っています。さあ、あなたはこの3つのうちどれを一番最初に食べますか?』


1.いちご
2.家の形のお菓子
3.ネーム入りチョコプレート
4.砂糖の人形




「お主はどれだ?」
「うーん・・・いちごですかね」

パンチにもめげず、楊ぜんは太公望を抱きこんだ体勢で後ろから「いちご」の文字を指す。
抱き込まれたほうはどれにしようか決めかねているようで、その隙に楊ぜんはふわふわの髪に頬を擦り寄せた。
それにも気づかず真剣に考える姿はとても可愛い。
昨日もその前も、1人でこんな風に可愛く考える姿があったかと思うと、2日のおあずけも忘れて微笑んでしまう。

「・・・わしもいちごかのう・・・うーむ・・でも・・・・決めた!いちごじゃっ」
「これで何がわかるのですか?」
「何がわかるかは次のページに・・」

ぺラッとページを捲ったところで太公望が固まった。
不思議に思って楊ぜんが本を覗き込もうとすると、我に返った太公望は必死にそれを隠した。
が、一瞬の隙をついて奪い取られる。
逃げようとする太公望を抱き締めて動けないようにし、楊ぜんはそのページを読み上げた。

「これで、あなたが一番大事にするものとえっち度がわかります。えーっといちごは・・・いちごを選んだ人は何よりも恋人を大切にします。あなたの恋人になった人は幸せですね。えっち度は99の最高です」
「・・・・・・・」
「99の最高ですって」
「そこだけ繰り返すでない!!」

後ろに感じる不穏な空気に太公望は暴れるが、楊ぜんが離すはずもなく。
来なきゃ良かったと思えど後の祭りで、何を言い訳してもきっと相手は聞いてない。

「嬉しいなぁ・・・師叔もホントは僕のこと大切にしてくれてたんですね・・・。えっちな師叔?」
「だぁー!!わ、わしは本当は家の菓子にしようと思ったのだ!今のなし!!」
「でもさっき、いちごって言いましたよね」
「・・・・」
「いちごって言ったでしょ?」
「・・・・うぅ・・・」

かなり間近で覗き込まれ、反抗できない太公望。
ムカツクやら恥ずかしいやらで、頬はいちごのように染まっていた。
深層心理を暴くはずが、逆に暴かれてしまった。
激しく後悔しても時すでに遅し。太公望はなんだか泣きたくなった。

至近距離で甘く微笑む楊ぜんがニヤッと笑ったかと思うと位置がいきなり逆転する。
なにもしないという条件なんて今更で、太公望はベットへ簡単に押し倒されてしまった。

「い、嫌だ!やめんか楊ぜん!」
「つれない振りして今まで焦らしてたんですね・・・悪い人だ。今日だってホントは部屋に来て欲しかったくせに」
「っ・・お主いきなり態度変えよって・・・っ離せ!やめっ・・」
「嫌よ嫌よも何とやらってね♪」

昼間拗ねてた子供の姿は跡形もなく、夜行性楊ぜんは嬉々として狼の本性を現した。
いやいややめて、とどれだけ太公望が暴れようと力では敵うはずもなく。
そしてそれは口だけに過ぎなくて。
幸せいっぱいの楊ぜんは、戸惑うことなく可愛い恋人を抱き締めた。



「2日もおあずけでしたし、手加減してあげません」
「嫌だ!・・っ・・やぁ・・」









嫌よ嫌よも好きのうち・・・?



















おわり。

 

 

企画小説行き詰まってるからってこんなの書いてる場合じゃないYO・・・。
ちなみに、家の形のお菓子は家庭を大事にする人で
ネーム入りチョコプレートは自分を大事にする人
砂糖の人形は友達を大事にする人で、えっち度は上から順に高くなってます。
前にラジオでやってた心理テストを出してみたんですけど
うろ覚えなんで違うかもですが(汗)
ってゆーか嫌よ嫌よも〜・・・って聞くとラッキー○ンのお母さん思い出す・・・。
主人公の名前何でしたっけ?