うらやましい?




形状記憶//愛。





わしは街でいっぱい買ってもらったあんまんをぱくりとやりながら、城に帰ってきても妙に浮かれている奴をじっと見ていた。
最初は、久々に二人ででーとなぞしたもんだから興奮冷めやらぬのだろうかと思っていた。 でももしそうならこの男は決まって城に帰ってきてからもいちゃいちゃしたがるのだ。
けどそれがない。
わしがこんなにも嬉しそうにあんまんを食べているというのに茶のひとつも出さぬとは。

いつのまに買ったのか、小さな紙袋を部屋に帰ってごそごそしていたまでは動きがあった。
それからは部屋の隅に一つだけある鏡の前に座ったまましゃべることすらしないから、わしは結構暇だけどこんなに浮かれている奴の姿は珍しいのでこっちはこっちで勝手にあんまん食べてマターリとくつろいでいた。
まあ気分のいい事は良い事だ、そのほうがわしにも害が及ばぬし?
機嫌の悪い奴なんてたまったものではない。良すぎるというのもちょっと恐い気もするが。

3つめのあんまんを完食したところでさすがにお茶が欲しくなった。
いつもなら察しのいい男がここですかさず茶を出すところなのに、けどまぁいいか。
人の楽しみを邪魔しては可哀想だろう。
特にわしか犬か修行ぐらいにしか興味ない奴なら尚更のう。



もしかしたら普通はここで、わし以外のことであんなに嬉しそうにしてるのは嫌とか。
ひとりで浮かれてないでいつもみたいにかまってほしいとか。
今日は結構いちゃいちゃしたいなー的気分だったのにとか。
茶入れろとか(?)
言うか思うもんなのだろうけど、わしの愛は歪んでおるから言ってやってもいいけどあえて言わない。
嬉しがらせるだけだから2割・恥ずかしさ2割・お主が嬉しいとわしも嬉しいから1割・珍しいから5割。
うーむ歪んどる。



特別に奴の茶もいれてやって部屋に戻ってくると、いきなり目の前に影が差した。

「楊ぜん?」
「もう、師叔ってばいつのまに居なくなってたんですか?心配するでしょう」

今まで無視しておきながら今更なんだと理不尽に思わなくも無いが、愛を感じるから許してやろう。
わしが直々にいれてきてやったお茶を嬉しそうに受け取る楊ぜんに微笑んだ。
部屋には二人きりなんだから、やっぱりこうして向き合っていたほうが全然いいし。
わしのお茶なんかでも嬉しがってくれる楊ぜんをみたほうがいい。
さっきと言ってることが全然違うが、それは何か、歪んでる故?
さっきはさっき、今は今。

「やっぱり師叔のいれるお茶っておいしいですね。いつもは面倒くさがってやってくれないけど」
「お茶係はお主だろう?今日はお主がいれてくれなかったから面倒くさいけどいれてきたのだ」
「あ、ごめんなさい・・・ちょっと嬉しい事があって気がまわらなかったんですよ」
「嬉しいこと?」
「気がつきません?」

くるっとターンしながら笑う楊ぜんだが、わしは軽く首をかしげるだけ。
くるっと回ってみせるということは外見で何か変化があったのだろう。
わしは楊ぜんに近寄って前から後ろからしげしげと眺めるが、奴が喜んでそうな変化は見つからなかった。

「ふふっくすぐったいですよ師叔」

近づきすぎたのか、わしのトレードマークのうさ耳が楊ぜんの顔をくすぐっていた。
面白かったから調子に乗ってわざと頭を揺らしてくすぐってやる。
でもイタズラが過ぎたのか突然ぎゅっと抱きしめられて止めさせられるが、わしはそれでもぐりぐりと楊ぜんの胸に頭を押し付けた。

「今日はいつになく可愛いですね?」
「・・・・(ぐりぐり)」
「師叔、くすぐったいですって」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・さっきはかまってあげられなくてごめんなさい」
「・・・・・・・(ぐりぐりぐりぐり)」

ふわりと頭を撫でられてわしは動きを止める。
知っての通りわしは素直じゃない。
愛も歪んでいるから思っていることとまったく正反対のことを言うこともある。
生まれつきだから直す事もできないけど、奴は分かってくれるのだ。

「寂しさ10割ってとこですか?」
「・・・・・8割」
「素直じゃないんだから。でも可愛いから特別に正解をあげますね」
「嬉しい事のか?」
「ええ、コレです・・・」

楊ぜんは後ろに手をまわし、するっと髪を1つに束ねていた紐をといた。
けれど嬉しそうに差し出されたものは髪紐ではなく。

「ゴム・・・・?」
「今日、街で買ったんです。可愛いと思いません?」

それはうさぎの形をした髪ゴムだった。
最近発売されたばかりで、形状記憶ゴムだからどんなに伸ばしてももとの形に戻るという優れものらしい。
でもなんでうさぎ?
お主なら犬だろう、ってゆうのはわしの勝手なイメージだが。

「あなたのこの頭巾ってうさぎみたいでしょう?見つけたとき嬉しくてすぐ買ってしまったんですよ」

その言葉通り、楊ぜんの頬が嬉しそうに緩む。
さっきと同じでもうどうしようもない溶けた笑顔を今度は正面から向けられて、わしとしたことがちょっと焦る。

「まるであなたのようで」
「これ見るたび師叔のこと考えちゃうんですよね」
「なんか嬉しくって」


「・・・・じゃあさっきから、これ見て浮かれておったのか?」
「だってこれさえあれば師叔といつも一緒、みたいでしょう、ね?」

では何か?
結局この男はわしのことを考えてて、ニヤニヤして、わしにかまってくれなくて、茶もいれてくれなかったのか?
でも結局わしのことか?
しかもこんなくだらないことなのに、でもやっぱりわしのことか?

「うらやましい?師叔?」
「・・・・・わしにも犬のゴム買って」

犬?って首をひねる楊ぜんだけど、わしのことしか考えていないと思われる奴にならきっとすぐに分かるだろう。
うらやましかないが悔しいではないか。
だって、お主はいつもわしと一緒かもしれんがわしはお主と一緒じゃないから。

声に出して言えばいいのにそこはやっぱり歪んだ愛故。
ああでも。
嬉しさの勢い余って自分からちゅーしてしまった、乙女街道爆進中なわし。



みたいな。










おわり。

 

突発な割にちょっと長め?
突破なだけに意味不明。
なんか師叔が変な人・・・。
支離滅裂な文章失礼致しました。御免。

昨日テレビで形状記憶ゴムというのを見たんで
ちょっと拝借。