あんまりそわそわしないで?







マイダーリン★★







周国軍師の太公望といえば聡明で優しくて平等で、その右に出るものはいないとされるほどの人物である。
のほほんとした雰囲気は癒し系で国の皆が彼を慕っていた。
しかし、先日の軍師様ご乱心事件でその今まで全てのイメージが崩れ去ってしまった。
あの太公望が、白昼堂々痴話喧嘩を繰り広げたのである。
しかも普段では絶対言わない恥ずかしいセリフの大サービス。



そりゃ誰だって驚くでしょ。



















「お主はこの先しばらく外出禁止だ」
「は?」

確かここが執務室だっけ、と扉を開けたと同時に目の前で仁王立ちしている人物に告げられた。

楊ぜんは先日のこともあり、目の前で小さいながらも精一杯に仁王立ちしている太公望にあまり良い印象を持っていなかった。
出来ればあまり関わりたくない人上位5名の中の一人になってしまっている。
これを聞けば太公望は怒ってまた暴れだすだろうし、もし記憶の戻った楊ぜんが聞けば間違いなく過去の自分を殺してやりたいと思うだろう。
だけどそんなことは、今の楊ぜんには関係なかった。
多少引きつった顔を隠しもせず、それでも笑顔で聞き返す。

「・・・理由を聞かせて頂けますか?」
「最近のなんやかんやで全然仕事が進んでおらぬ。それを片付けねばならんからのう、お主も含めてわしらも当分ここで缶詰じゃ」

最近のなんやかんやとは楊ぜんの記憶後退であり、約束したにも関わらず懲りずに浮気を繰り返す彼に太公望がキレて暴れていたことである。
当然仕事は溜まるわけで、優秀な部下として働いてみせると言った手前外出禁止も缶詰も仕方ないことだと思う。
ただ、記憶の後退は楊ぜんのせいではないし、女性に声をかけるだけで浮気だと暴れられるのには釈然としないながらも、楊ぜんは山積みの執務にとりかかろうとしたが。

「んなこと言ってよう、ただの浮気防止なんじゃねぇの?太公望」
「おお、姫発のくせによくわかったのう」



やっぱりそうゆう事ですか。



とばっちりで自分も缶詰にさることに嫌味のひとつでも言ったつもりの姫発に、太公望は満足そうににやりと笑った。
そんな太公望に楊ぜんは嫌味たっぷりにため息をつくと、気づいた相手はムッと睨んでくる。
見ないフリをして小さく舌をだす楊ぜんの中で、太公望は出来れば関わりたくない人1位まで上り詰めていた。






















「・・・・のう」
「はい?」
「楊ぜんは何処へ行ったのだ」

調べ物をしに書庫へ行き、ついでに食堂で桃を拝借してきて戻ってみれば、そこに楊ぜんの姿だけが見当たらなかった。
嫌な予感がして尋ねてみれば、淡々とした返事が返ってくる。

「街へ視察に行ってもらいました」
「はぁ!?そんなもんお主が行けばよいではないか!」
「彼が行きたいと言ったのです。記憶がないから、街の様子を把握したいと・・・ちょうど良い機会ですしお任せしたまでです」

そう言ったきり仕事に戻ってしまった周公旦と、その隣で俺は止めたんだぜ!?と慌てて言い分けする姫発。
街へ行った?しかも一人で?
呆然と立ち尽くしていた太公望は一瞬後には踵をかえし、部屋を飛び出した。

「太公望!?仕事はどうするのですか!」
「後でやる!」

一応返事は返したものの、執務室からはもうかなり離れていたため聞こえていないだろう。
太公望は四不象を呼びつけるのも忘れ、全速力で街へ向かっていった。



(楊ぜんのやつ〜!浮気しておったらただではおかぬからなっ)
























一方そのころ楊ぜんは、何て言うか期待を裏切らず浮気の真っ最中・・・・というか彼が声をかけなくても女性のほうから次から次へと言い寄ってくるのだ。
もともと女好きの色男でも流石にその数に逃げ腰になっていたが、久しぶりに邪魔されず女性を口説くチャンス。
楊ぜんは何となく赤みがかった髪の少女に目をつけ、悩殺スマイルを浮かべて誘おうと近づく。

「浮気か?」
「!?」

後一歩で少女の腰に手が回るというところで、後ろから容赦なしに長い髪が引っ張られた。
驚いて楊ぜんが振り返るとにっこり笑顔の太公望がそこにいた。
怖いくらいクールに微笑む人に楊ぜんはヤバイと思うより、まずその格好に驚いた。
いつどこで着替えたのか太公望はいつもの道服ではなく、少女のような着物を身にまとっていた。

「師、師叔?ってゆうか仕事は・・・」
「サボった。のう楊ぜん。わしというものがありながらこれはどうゆうことじゃ?」
「いえ、あの、別に・・・」
「ねえちょっと、あんた楊ぜん様のなんなの?」

今まで太公望一筋で、相手にもしてくれなかった楊ぜんが今日は自分たちに優しいのだ。
チャンスとばかりに狙っていた女性たちは、楊ぜんの腕にぎゅっとつかまっている少女にしか見えない太公望を一斉に非難する。
だが当の本人は気にもせず、更に楊ぜんに身を寄せ自信満々に言い放った。



「わしは楊ぜんの妻じゃ!」
「ええ!?」
「!!」



驚く女性たちと一緒に声を上げた楊ぜんをジロっと睨みあげて黙らせ、勝ち誇った笑みを浮かべる。
呆然とする人ごみを楊ぜんの手をひっぱり、二人はさっさと街の中へ消えていった。


















「フッああ言っておけば多少はおなご達も寄って来ぬであろう♪」
「あの・・・実はやっぱりあなたって女性だったってこと・・・」
「わしは男じゃ」
「・・・ですよね」

諦めが悪いのうなんていう言葉に楊ぜんはため息をつく。
目が覚めたら何故か人間界にいて、軍師の右腕だと言われ、記憶後退だとか言われて。
しかもその軍師(男)と付き合っているなんて。
前者はなんとか受け入れても後者をあっさり受け入れることができようか。
自分は間違っても男より女のほうが好きだと思う。いや、好きだ。

はぁともう一度ため息をついて顔をあげる。

「あれ?」
「どうした?」

頭の中で何かが過るようにフラッシュバックし、楊ぜんは顔をしかめた。
そんなはずはないのに何処か見たことのある風景で、太公望のほうもハッとして気づいたようで。
先日楊ぜんが倒れたのはこの場所だった。

「・・・ここはお主がそうなってしまった原因の場所じゃよ」
「ここが?」
「わしをかばって・・・・お主が女好きに戻ってしまった場所じゃっ」
「・・・・・・」

むぅっと拗ねたように下から太公望は睨んでやる。
身長差のせいで自然と上目遣いとなり、眉間に小さくしわがよっている。
楊ぜん自身はいつもの感覚で女性と関わっているのだが、どうやら太公望と付き合っている自分は随分と一途らしい。
それなのに昔はこんな女好きのプレーボーイだということを目の前で見せ付けられ、拗ねているのだろう。
ぎゅっと手を握ってくる小さな手のひら。

「そんなに僕のこと好きなんですか?」
「・!?・・っべ、べべ別にわしは・・その・・・あの・・・・す・・・
好きじゃ・・

あっさり返事が返ってくると思い、楊ぜんは何となく聞いてみただけだった。
わしのものだとか浮気は許さないとか堂々と言っていたはずなのに、途端に恥らってみせる太公望に楊ぜんは目をみはる。
こちらまで赤くなってしまいそうになって、慌てて太公望から顔をそむけた。
あやうく可愛いなんて思ってしまうところだったから。
楊ぜんが繋がれていた手をすっと離すと、太公望の顔が悲しそうにゆがむ。

「・・・・何度も言うようですけど、僕はあなたのことはなんとも思ってませんし恋人といわれても困ります」
「記憶が戻って後悔するのはお主だぞ?」
「戻らないかもしれないじゃないですか。このまま一緒にいて、僕があなたを好きになることだってありえないし」
「・・・・・・」
「師叔?」

流石に言い過ぎたかと太公望の顔を覗き込めば、ジロッときつく睨まれる。
暴れられる!と先日の経験から察知した楊ぜんは避難体勢をとったが、一向に打風刃は飛んでこない。
一歩退いた身体をそろそろと近づけて伺ってみる。



「そんなの、わからぬではないか」



ぷくっと柔らかそうな頬を膨らませ、唇を尖らせて拗ねた声音。
大きな瞳で見つめられ、思わず見とれてしまっている自分に楊ぜんは気が付いた。
頭の中の何処かにあるらしい映像とシンクロするのを頭を振ってやめさせる。




そんな顔したってダメですよ・・・っ。




言ったはずの言葉はちゃんと音になっていなかったかもしれない。
今度こそ可愛いと思ってしまった。

楊ぜんは突然スタスタと歩き出し、その後を慌てて太公望が喚きながら追いかける。

「楊ぜん!どうしたのだいきなり・・っ」
「ついてこないでください!!」

厳しい声に太公望の肩がビクっと揺れた。
その場で立ち止まってしまった太公望に楊ぜんは気づかない。

懐かしい感情に照れてしまう。
仙界一の色男は、赤い顔を隠すのに必死になっていた。















つづく

 

え?終わらないの?(おい)
2で終わらないことにちょっとビックリです・・・
今回は

うちはダーリンの妻だっちゃ。
うちというものがありながら〜!

が言わせたかっただけですv
師叔に甘くない楊ぜんなんて楊ぜんじゃないし、書きにくい(本音)!!
ちょっと気持ちは揺らいじゃってますけどねーv