例えば塀の上で日向ぼっこしている猫がいて。 
        視界の端に楊ぜんが映ったとして。 
         
         
         
         
         
        健全?妄想ライフ 
         
         
         
         
         
        太公望はなんの前触れも無く突然ニヤリと怪しく笑った。 
        幸い、その向かい側でせっせと仕事をしていた楊ぜんには見られなかったようだ。太公望は筆を握り、いかにも難しく考え込んでいる風にみせかけて。 
        実はまったくこれっぽっちも仕事のことなんて考えてやしなかった。 
        俯き加減で隠された口元はやはり怪しく歪められており、頭は完全にトリップしてしまっていた。 
        「師叔?」 
        筆のすべる音が消えたことに楊ぜんが顔を上げて太公望を伺ったが、その姿に考え事の最中に邪魔しちゃいけない、とすぐに自分の仕事に戻っていった。 
        考え中は考え中でも、楊ぜんが思ってるような考え事ではないのだけど。 
        いくら天才道士で恋人のことなら何でもおまかせな楊ぜんでも、これだけはわからないだろう。 
        あの太公望が、まさか。 
         
         
         
         
        (猫と楊ぜんか・・・・・猫楊ぜん・・・・) 
         
         
         
         
        そしてまたニヤっと笑う。 
        こんなことを考えてるなんて夢にも思わない楊ぜんは、まぁ多分幸せなのだろう。 
        幼い頃から、太公望には妄想癖なところが少々あった。 
        最近ではその妄想がどんどんエスカレートしている傾向にあるが、本人に自覚なし。 
        妄想の対象は必ずと言っていいほど楊ぜんで、今日もまた太公望の妄想の餌食にされてしまうのであった。 
        「師叔?そんなに考え込むほど難しい内容なら僕も手伝いましょうか?」 
         
         
         
         
        嗚呼、知らぬが仏。 
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
        わしの飼い猫楊ぜんは、どんな猫より美しいのだ。 
        銀に近い真っ白なつやつやした毛並みは一級品だし、しなやかな肢体は一度見つめてしまうと目が離せなかった。 
        美しいだけじゃなくどんな猫より可愛い楊ぜん。 
        わしにしか懐かないうえに、ちょっとでも離れたりすると不安がってひっついてくるのだ。 
         
         
        設定はそうだのう・・・パラレルがよいかのう? 
         
         
        というわけで、わしらはとあるマンションの最上階に住んでおり、今はソファの上で楊ぜんに後ろからぎゅっと抱きかかえられている。 
        「のう楊ぜん、ちょっと離してくれると有難いのだが・・・・」 
        「やです。だってこれから普賢さんが遊びにくるのでしょう?師叔をとられたくありません」 
        「んなこと言ったって客人の相手ぐらいせねばならんし・・・あっ来た」 
        「ダメ」 
        チャイムの音に、わしが玄関に向かおうとすると楊ぜんがぎゅっと抱き寄せて邪魔をする。 
        我侭で、独占欲が強いところも嫌いじゃない。 
        かといって普賢を待たすわけにもいかないので、わしはやれやれとため息をついて身体をくるっと反転させ、楊ぜんの首にぎゅっと抱きついてやった。 
        猫のように擦り寄ってやれば、楊ぜんも喉をならして頬を擦り寄せてくる。 
        「この続き、・・・また後でしていいから」 
        「わかりました」 
        真っ赤になって言ったわしに、楊ぜんは嬉しそうに笑うと身体を抱いていた腕を緩める。 
        わしは暖かいそこからするっと抜け出して、火照った頬を冷やしながら玄関に向かうのだった。 
         
         
         
         
        「ねえ望ちゃん・・・」 
        「・・・なんじゃ」 
        「僕帰ったほうがいい?」 
        「・・・・・」 
        最初は普賢と二人で他愛も無く話に花を咲かせ、楊ぜんは側で大人しく座っていたのだが。 
        そのうちじりじりと近づいてきて、いつのまにかまた後ろから抱き込まれる体勢になってしまっていた。 
        時々わしの髪に口付けたり頬を擦り寄せたり、長いしっぽで悪戯してきたり。 
        その合間に普賢を睨みつけては威嚇していた。 
        「楊ぜん」 
        「はい師叔」 
        にこっと嬉しそうに微笑まれれば、怒る気もうせるというもので。 
        悪いと思いながらも、しょうがない猫のために普賢には帰ってもらった。 
        途端に先ほどよりもごろごろと懐いてくる楊ぜんに、わしは悪い気はしないながらも長いため息をつく。 
        「あのなぁ・・・・」 
        「だって僕、あの人嫌いなんです。僕の師叔にべたべたして・・・」 
        好き嫌いのはっきりした、気位の高い猫。 
        少し伏せられてしまっている形のいい耳をそっと撫でてやる。 
        「普賢は親友だぞ?仲が良くて当たり前ではないか」 
        「でも嫌です」 
        「・・・我侭」 
        「嫉妬深い、って言って欲しいですね」 
        キラっと綺麗に光る紫の瞳に見つめられると、何もかもがどうでも良くなってしまうことをこやつは知っているだろうか。 
        こんな束縛なら心地よい。 
        ゆっくりと合わせられた唇の合間を縫って、ざらざらとした舌が忍び込んできた。 
        わしも応えるように舌を動かしてやれば楊ぜんは軽く微笑んだようで、唇の端が上がるのが分かった。 
        「ひゃっ!」 
        それと同時に布越しに刺激が与えられ、わしは思わず声をあげてしまった。 
        密着した身体は楊ぜんの両腕で抱きしめられているのに、何かが秘所を突いている。 
        「んっんっ」 
        「あなた好きでしょう、僕のこれ」 
        視界の端に、揺れる長いしっぽが映る。 
        その先っぽで秘所を突付かれて、だんだんと身体の力が抜けてしまい楊ぜんに縋らなければ立っていられなくなっていた。 
        真っ白ですっと伸びた綺麗なしっぽ。 
        わしは無意識にそれをそっと撫でたらしく、楊ぜんの動きがピクっとして一瞬とまる。 
        わしの好きなこれは、楊ぜんがわしに触れられるのが好きな場所。 
        「もう、感じちゃったじゃないですか」 
        「お主がイタズラするから仕返しじゃよ」 
        クスクスっとお互いに笑って、それからまた深いキスをする。 
        身体は軽々と抱き上げられ深いキスに酔いながら、そのまま薄暗い寝室へ・・・・ 
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
        「・・・なーんちゃって、の」 
        ぐふふふふふふ・・・という怪しい笑いに楊ぜんはビクッと顔を上げた。 
        今まで難しく考え込んでいたはずの太公望は、どこか違う世界にいっちゃってるかのように怖いくらい笑っている。 
        「す、師叔??」 
        「んー?ふふふふふふ・・・」 
        妄想に重ね合わせて本物に猫みみをつけた姿を想像でもしたのか、太公望は楊ぜんの問いかけなんか聞いちゃいない。 
        楊ぜんは冷や汗を流しつつ、そっとしておいたほうが身のためだと判断して何事も無かったように仕事に戻る。 
        この後しばらく、太公望は妄想の世界から帰ってはこなかった。 
         
        1時間後。 
        全然仕事が進んでいない書簡が周公旦に見つかりハリセンで叩かれて、やっと現実に引き戻されたという。 
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
        おわり。 
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