「暑い暑い暑い〜〜!!」
夏の真昼間。当たり前のことを大声で連呼するその人は。
言わずと知れた周の軍師太公望。


【暑い日の涼み方】


夏は暑いものと決まっていて。
どんなに騒いだって暑いものは暑い。
愚痴愚痴と訴えれば暑さが軽減されるのなら、誰だってそうする。
だが、そんなことはありえないし。
それどころか、こっちだって暑いのを我慢して仕事をしているというのに。
やる気なさそうにダラダラされて。
仕事を進ませないうえに暑い暑い騒ぐのは、悪いけど鬱陶しいし気に障る。

始めは無視を決め込んでいたが、狭い部屋の中。
いつまでも相手しないで仕事をこなしていくには、楊ぜんにもまだまだ修行が足りなかった。

「師叔、五月蝿いです!!黙って仕事をしてください。」

書簡から目を上げずちょっとキツめな声色で太公望を制する。
楊ぜんの言葉に驚いたのか、太公望がピタリと黙った。

やっぱり言ってみるもんだ。
これで仕事に集中出来る、と楊ぜんが満足したとき。

「なんだ、おぬしは。やっとしゃべったと思ったら、五月蝿いとは失礼な!!」
「だいたい、こんな狭い部屋に閉じこもってコザコザした仕事をこなさなければならぬから、苛々するのだ。」
「おぬしのその髪も原因だぞ?そんなに長く垂らして、見ているこっちが暑くなる。」
「こんな蒸した部屋の中で肩布もはずさぬとは、おぬしの感覚はどうなっておるのだ。」
「神経がないか、不感症のどちらかだな。」

息つく間もないほどの大反撃。
楊ぜんは大きく溜息を吐くと、やっとのことで書簡から目をあげて太公望を見た。
頭巾も道服の上着もとって、いつも以上に軽装なのに、額には汗の玉が浮かんでいる。

「今日は仕方がないでしょう。もう諦めて仕事してくださいよ。」




夏は暑い。毎日暑い。暑いのは今日に越したことなく。
一昨日も昨日も暑かったし、きっと明日も明後日も暑いだろう。
だが、今日がいつもに増して暑いのにはちゃんと理由があった。

暑い中での仕事は能率がグンと下がる。
だから、太公望の依頼で作られた太乙印の冷風機が執務室には設備されていた。
が、毎日の酷使に耐え切れなかったのか、元々脅しで作られたそれは不良品であったのか。
いきなり止まって、ウンともスンとも言わなくなったのだ。
修理させるために、四不象に太乙の元に運ばせてから数日は、師匠思いの自称弟子が団扇で扇いでくれていた。
しかし今日は、その弟子も武王と旦のお供として外出中で。
結局、むしむしと熱の篭る執務室で楊ぜんとふたり、仕事をすることになったのだ。




「この暑さの中仕事なんぞ出来るか。おぬしはなんでそんな涼しい顔をしておるのだ!」
「涼しい顔、していますか。」
「おぬしのその暑苦しい髪や服装でこっちは益々暑さ倍増中なのに、当のおぬしは汗もかいとらんとは!!」

楊ぜんだって別に涼しいわけではない。暑いことは暑いのだ。
それを、忍耐力を駆使して我慢しているのに、自分が暑さの原因だといわんばかりの太公望の台詞にちょっとカチンとくる。
この数週間、別件で太公望に対して不満を持っていた楊ぜんは、嫌味のひとつでも言いたくなる。

「『心頭滅却すれば火もまた涼し』。師叔、貴方修行が足りなすぎるんじゃないですか?」

ふん、と冷たく言い放って再び視線を書簡に落とす。
いつまでも相手してられない、といわんばかりの楊ぜんの態度に。
太公望はムッとする。

騒いだって仕方がないことくらいわかっている。
だが言わずにいられないのだ。
それにこんなことは楊ぜんにしか言わない。
甘えの一種みたいなものなので、楊ぜんもわかっているはずなのに、なんだその態度は。
と、太公望の逆ギレ指数はどんどんと上昇していく。

ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がって。
カツカツ、と足音を立てて楊ぜんに近づく。
顔もあげない楊ぜんの横で立ち止まると。
がばぁ、と。両手を広げて、がばぁ、と。
楊ぜんにびったりと抱きついた。

「なっ!?」

予想していなかった太公望の行動に。
楊ぜんは驚いて筆を落とし、その筆がコロコロと墨の筋を引いて書簡を転がるのを、あ〜あ、という思いで眺めた。
その間も太公望の抱擁は強くなっていくばかり。
久しぶりに感じる、太公望の感触と匂いと髪の柔らかさ。
書簡を諦めた楊ぜんの意識は、太公望に集中される。

暑いと言って、接触を避ける薄情な恋人。
夜の営みどころか、幼い恋人同士のような接触さえ許されず。
抱擁も口付けもままならない日々を送っていた楊ぜんは、そろそろ我慢も限界で。
少々太公望に対しておかんむり状態であった。

それなのに、太公望からのこの接触。
ちょっとドキドキして喜んでいる自分を自覚して楊ぜんは心の中で苦笑した。

「どうだ。」

表情は見えないが、ニヤリとした感じの声。

「えっ?」
「こうするといくらおぬしといえども、暑いであろうが。」

太公望の言葉に、ちょっとポカンとして。
子供じみた反撃を企てた太公望に対して苦笑する。
笑いの気配を察して太公望が憮然とした表情を浮かべて顔をあげた。
緩んだ太公望の腕の感触に、今だとばかりに楊ぜんは軽い体を引き寄せて。
机がガタガタと揺れて墨が零れていくのにも構わずに、太公望を膝のうえに座らせた。

「貴方から触れてくれるなら、僕は暑くても全然構いませんよ。」

ぎゅう、と抱きしめると、微かに汗の匂いがする。
それは太公望とて同じことで。
嗅ぎ慣れた楊ぜんの汗の匂いにドキリと胸が鳴る。
暑くて接触を避けてはいたが、別に嫌いになった訳ではないのだ。
・・・楊ぜんも、それに連なる愛の交わりにも。

「なんか、別の意味で体が熱くなって来ましたよ。」

太公望の首に顔を埋め、舌で首筋をネロリと舐め上げる。

「やっ、やめぬかっ!!」

一度自覚すると、その行為の予感に体温が上昇する。
しかし。
やはり暑いのだ。
交わる行為などをはじめてしまえば、暑さは耐え切れなくなるだろう。

「暑いだろうが、放さぬか!!」

大体昼間の執務室。
そんな行為に及ぶこと自体間違っているが。
火のついた楊ぜんにはきっと通じない。

バタバタと暴れる太公望を、楊ぜんは抱きしめたまま。
ハタ、と思いついたままに変化を遂げた。

太公望は暑いのが嫌なだけで、行為自体を嫌がっている訳ではない。
なら、暑くなければ良いのだ。
太公望が喜ぶように、太公望が自ら離れたがらないように。


冷たくなれば、良い。


どんどんと楊ぜんの体温が下がっていく。
ヒンヤリとした感触に気がついて、太公望の抵抗がやんだ。
首筋に触れた頬や唇。
背中に回された掌。
服越しに感じる楊ぜんの体は。
先程までの熱が嘘のように、まるで人間ではないかのように。
冷たくて、太公望の体に溜まった熱さえも奪っていく。


太乙印の冷風機や団扇の風など足元にも及ばない程。
気持ちいい。
冷たさもあるが、それ以上に、滑らかなさわり心地のよい。
楊ぜんの肌。


・・・・・・楊ぜんの肌?


うとりとしていた太公望がハッと我に返ると。
いつのまにやら、本当に手が早いというようがないくらいの素早さで。
太公望の上服は剥ぎ取られていた。
もちろん楊ぜんも衣服を乱し、前を肌蹴させている。


「なっ!?」
「あれ、気がついちゃいましたか。気持ち良さそうにうっとりしてたのに。」

クスクスと笑いながらも、太公望の肌を撫でることをやめない。
胸の突起を冷たい指で掠られて、ビクリと太公望の体が震える。
その感度の良さに気を良くしたのか、スルリ、と下穿きの中に手が入り込む。

「こらっ!!やめぬか!!」
「いやですよ。師叔がせっかくその気になってくれてるのに。」
「な、なっとらん!!」
「じゃあ、これはなんなのです?」

キュッと軽く、だけど直に握られて、ゾクゾクと背筋を快感が駆け上がる。

「こ、ここをどこだと思っておるのだ!?」
「執務室ですけど?」
「ですけど、じゃない!!人が来たら・・・」
「大丈夫ですよ。皆出払っているじゃないですか。ご心配なら、ホラ。」

パリパリ、と小さく火花が弾けるような音がして。
執務室に結界が張られる。

「これなら大丈夫でしょう?」
「だがっ」

体は楊ぜんに引きずられているのに、理性の欠片がそれを引き戻そうとしている。
そんな太公望の姿に楊ぜんは益々そそられる。

「いいじゃないですか。少しくらい。涼しくなりましょう?」
「・・・涼しく?」
「そう。僕の体冷たいでしょう?気持ちよくないですか?やめたらまた暑いなかで仕事ですよ。」
「だが・・・」
「もっと気持ちよくなりましょう?ホラ、僕のコレもこんなに冷たく滾ってるでしょう?」

太公望の股間にすっかりと勃起したモノを押し当てる。
お互いのモノがぐりぐりと擦れ、そこから信じがたい快感が広がる。
久しぶりの性的接触に、太公望の体も抑えようもない程、熱くなるばかりで。


「躯の中から冷やしてあげますよ。いくら熱が上がっても僕のコレが冷ましてさしあげます。
最後には冷たい液を沢山注いで・・・どうですか?冷たく広がる感触を想像して・・・興奮しませんか?」


楊ぜんの言葉のままに、体内に満たされる冷たさが、想像以上の力を持って太公望の体を刺激した。

行為を続ければ、今まで体験したことのない冷たい交わり。
行為を拒否すれば、この感触から引き剥がされて暑い中執務に戻る。
昼間の執務室だが、人が来る可能性は低く、また来たとしても結界に阻まれる。
体はもうその気になっているし。
抵抗する意思は少しあるが、抵抗する意味は上記のような理由でほとんどないも同然だ。



「まあ・・・良いか。」

太公望の返事を合図に、楊ぜんの唇がその唇に触れ。
ひやりとした舌が熱い口内を蠢きだす。

夏の暑さなのか、体が発する熱による熱さなのか。
もうそんなことはどうでもよくなって。

熱くて冷たい、久しぶりの逢瀬を。
ふたり充分楽しんだのであった。





その後。
仕事が進んでいないことに腹を立てた周公旦のハリセンが飛んだとか。
すっかりと腹を冷やした太公望が、腹痛を訴えて寝込んだとか。
せっかくのアイデアだったが、太公望に拒否されて二度と使えなかったとか。

結局、終わりはお約束通り。



おわり☆

 

   

 

『突発!!きまぐれ爆走隊』のカルナ様より頂きましたvv
暑中お見舞い小説です〜v
転載はお好きなように、ということだったので遠慮なくさせて頂きました^^
頂いてからかなり時が経っているのでアップしていいのかかなり迷いましたが(汗)
師叔の甘えっぷりがすごく可愛いです。
暑い暑い夏のはずなのに、楊太さんのいちゃつき(?)はそんなものよりはるかに熱いですねv
楊ぜんさんの冷たい○○(敢えて伏せ字.笑)にはかなりドキドキしました。
昼間なのに執務室なのに、というシチュエーションがまた萌えですvv
まあ・・・良いか。なんて!師叔!
師叔がとても積極的で嬉しかったです。いや、私が(笑)

カルナ様。素敵な暑中お見舞いを有り難う御座いましたv