気の合う仲間と、熱く語るあやつが嫌いじゃない。




彼、カタルシス。




たまたま講義のない時間が重なって、わしと楊ぜんは大学内のカフェテリアでお茶をしていた。
3限の中間ぐらいの時間だろうか。そのせいでここは人気も少なく、のんびりした空気が心地良い。
コーヒー1杯だけでも、二人で話していれば案外間が持つもの。
人気がないからって、たまに不埒な手が伸びてきて首の後ろの辺をくすぐるのはどうにかならんもんかと思ったが。
なんでわざわざ4人がけのテーブルを選んだのか、今身をもってそのバカらしい理由を理解してるわし。
テーブルを挟んだ向かい側に座らず、隣に陣取ってべたべたしてくる楊ぜん。

「ねぇ師叔、4限さぼってこれからどこか行きません?おいしい店見つけたんですよ」
「ダメ。もういいかげん単位もヤバかろう?それにおいしいものだったら家に帰っても食えるからのう」
「?」
「おぬしが作ってくれるのであろう?」
「・・・・それって・・・今日泊まってもいいってことですか?」

そしてわしも満更ではない。
嬉しそうに微笑みシッポをふって、わしを抱き寄せようとする手はさすがに制す。でもわしも笑って。


だらしなくでれ〜ッと緩んだ顔のくせにこやつはホントに綺麗に笑う。
それにいつもドキドキさせられるわけだけど、しかし結構見慣れたもの。
わしがよく知っている楊ぜんだ。






じゃあこれは。
今わしの隣にいるコレは別人みたいだ。



「やっぱりシュガーレイですよね。あの何でもこなすスタイルが他にはないって言うか・・」
「だよなー!俺もアルバム持ってる持ってる。エヴリモーニング最高」
「あ、やっぱりその曲きますか」
「常識だろ?あー!でもやっぱりおれはメイシーだなv超ぷりんちゃんv」
「最近好きですよねメイシーグレイ。声がよくて、僕も最近結構聞くんですよ」
「あーもうー!!フジロック行きてー!バイトさえなけりゃなぁ〜・・」
「僕は行きますよ♪天化くんも行くっていってましたし。ってゆーか行かないほうがどうかしてます!」
「テメェーら・・・;くそっホントあの店長ぶっとばす!!」



静かなカフェにうるさいくらい盛り上がる声が響くが2人はまったく気にしていないようだった。
あの後やってきた姫発と語りだしてしまった楊ぜんは好きにさせ、わしは冷めたコーヒーをずずっと啜る。
そしてちらっとだけ隣を盗み見た。

(洋楽好きなのか・・・知らなんだ)

楊ぜんは絶対わしにはこんな話はしない。
わしが退屈だろうと気を使ってくれているのだろう。
だからかなり珍しい。こんなに子供みたいに熱く語る姿などみたことがなかった。

そして、こんなにもわしを1人放っておくのも珍しい。

そこで視線は外し、コーヒーカップの中身を眺めつつ耳は隣に傾ける。
わしには分からない話だが、聞いているだけならおもしろいものだ。
隣でおとなしく話を聞いて、勝手に色々と知らなかった事を発見するのは好きだ。
饒舌に語る言葉と時々する笑い声。
わしは気付かれないよう、ふふっと小さく笑った。

いつものように2人で甘い時間を過ごすのもいいけれど、こういうのも好きだ。
普段の優雅さからは想像もできない無邪気さで語る楊ぜんはまるで別人みたいだ。

けれどいい。それが好きだ。

わしには甘い声で愛を語ってくれればそれでいい。
それ以外にそうじゃなければそれで良い。



でも。

でも、アレだな。

ちょっとくらい

こっちを向いてくれてもよいのでは?



「ようぜん・・・」

気付かない。
丁度あがった笑い声に掻き消されて聴こえなかったようだ。
長い髪をひと房軽く引っ張ってやる。
気付かない。

「・・・・・」

無造作に椅子の上に置かれている楊ぜんの手をじっと見る。

(これで気付かなかったら、今日は泊まりに来るなとでも言ってやろう)

悪戯っぽく笑い、そっと、その手の上に一回り小さいわしの手を重ねて。



「・・師叔?」
「わしも連れてけ」


今度はほら。いつものように。

わしに甘く愛でも語ってくれ。

 

 

今年もフジロックの季節が近づいてきましたね〜。
毎年行きたいとは思うんですけどね。
今年はつじあやのもでるしー><!