君がいなかったら僕はどうだろう?


君がいなかったら僕はこうだろう。







君 が い な か っ た ら + +








それはちょうど一週間前のことだった。



「明日から出張なのでよろしく」



明日早く起きるにはそろそろ寝たほうが良いという時間だった。


ダブルベッドの上で寝転がり、その日出かける前に布団を干していったお陰もあったのだろう。
未だ残るポカポカした布団の暖かさにそのままうとうととしはじめた人にクスっと笑ってから
肩まで掛け布団をかぶせ寝室の電気を切ろうと立ち上がった時丁度あっ!という声が聞こえた。
そう言えば言うのを忘れておったと前置きされてから。
次に言われた言葉に隣に腰を下ろそうとしていた僕は一瞬動きが止まった。


「・・・出張、ですか」
「うむ。一週間ほど代理教師を頼まれてな・・・わしのかわりには太乙が来ると言っておったから
みんなにもそう伝えておいてくれ。じゃ、おやすみ」
「ちょっ・・!師叔っ」


言うことだけ言ってまた布団をかぶろうとするのを阻み
枕に埋めていた顔をムリにコチラに向かせる。
不満げに尖らせた口は非常に可愛らしくとても自分より年上とは思えない。


「どうして師叔なんですか?古典の先生ならほかにも・・・」
「校長が、是非に、と、わしを推薦したのだ。まったく、ジジイの考えとることはよくわからぬ」


面倒くさそうにこの出張の原因となった訳を説明する。
むぅ〜・・と唸ってから師叔はひとつ小さくくしゃみし、身体をぶるっと震わせた。
寒さの原因は布団を剥ぎ取ってしまった僕で。
それに気づいたこの人はなんだかぼけっとしている僕に不思議がりながらも
さっき剥ぎ取られたポカポカの布団を奪い返し、満足そうにその中へ潜りこんだ。


「師叔・・・・」
「ぬおっ・・なんだおぬしイキナリ・・・!って!や、やめ・・あっ・・」


ちょっと耳の近くで囁いて、ちょっと舐めただけなのにこの人は感じたみたいに声を上げた。
いや、感じてるんだ。

せっかく師叔が奪い返した布団をまた、いとも簡単に奪い取り
代わりに僕がこの人の上に覆い被さる。
今日は僕も、明日生徒会の会議が朝早くからあるためこんなことするつもりはなかった。
だけど気が付いたら、抵抗する細い腕を押さえ込んで、唇はすでに重なっていた。


「ばっ・・か!明日早いんだから・・・こんな・・や・・ぁ・・楊ぜん!!」
「一週間って思ったよりも長いんですよね・・・」
「何・・言って・・・あっ!・・んん・・っ」


だから僕の「感じ」を忘れないように。
抵抗を続ける身体は与える熱にだんだんと溶けてゆき
それからはなにやら無我夢中で抱いてしまった。

「感じ」を忘れないように激しくした。最後にチュッと首筋に口づけ赤い印を刻み、形を残す。
それは明日から自分のいないところで、知らないところでこの人に近づく輩への牽制。
そしてそれが有る限り離れていても自分のものだと言える征服感。
どうやら忘れたくなかったのは僕のほうで、だけどそれはお互い様であってほしくて。





一週間も君がいない。





君がいなかったら僕はどうだろう?











案の定次の日は二人揃って寝坊してしまい、師叔も僕も慌ててそれぞれの目的地に急いだ。
別れ際に、「じゃあ行ってくる」と言われ、気の抜けたように行ってらっしゃいと返事を返した。
多分笑顔で。でもそれは未だに自信がないけれど。




それがちょうど一週前の出来事。





だけど彼はまだいない。









「あ、楊ぜんさん!」


放課後の生徒会の仕事も終わり、帰ろうと玄関に向かっているところを後ろから呼び止められた。


「あれ?天化くん。まだ残ってたの?」
「部活さ!あと古典の追試受けてて・・・太乙センセの小テストは難しすぎさぁ〜!
それにイキナリやるから赤点は決定的。で結局追試さ!」
「人が悪いからねぇあの先生も」


くすくすと笑いながら校舎から出て、嘆きながらも後に続く彼を待った。
そのままなんとなく二人で校門まで歩きながら談笑する。


「あ。そーいえば師叔はいつ帰ってくるさ?」


話の途中の何気ない一言。
自分でもよく分からなかったが、師叔という単語に酷く自分の心臓が跳ね上がる。


「さあ。出張は一週間っていってたけど」
「一週間っていったら今日さ。・・・・でも今日師叔いたさ?」
「いないよ。そうだね・・・きっとまだ色々忙しいんだと思うよ。
それかあっちの生徒とか先生が離してくれないとか」


あ。なんだが今のは自分で言ってて腹が立った。


「何処行っても人気者だかんねあの人。でも早く帰ってきて欲しいさ〜
師叔だったら絶対小テストなんてやんないから古典は楽でいいのにさ」
「・・・・そうだね」


あまりに単純なその理由に苦笑を漏らす。

でも全て彼の言うとおりで、人気者というのはこの学校でも誰もが認めるだろう。
「師叔」という呼び方は僕がそう呼んでいたのがみんなに広まり、それから先生とは誰も言わない。
教師としてのプライドがあるのか、最初は彼もちゃんと先生と呼べ!と怒っていたが
僕の、そのほうが親しみがあっていいじゃないですかという一言に折れた。
本当はそんなに嫌じゃなかったのだろうか。以外にあっさりで、でもちょっと拗ねたように見せて。
その時のむくれた顔の可愛さを思いだし、自然と口元が緩んでいた。


「楊ぜんさん?」
「や、・・・なんでもないよ」
「怪しいさーその顔。何かんがえてたさぁ〜」
「なんでもないってば。あぁ、それより天化くん。どうして師叔のこと僕に聞くの?」


話題転換のためのちょっと何気ない疑問をそのまま口にしてみたつもりだったが
天化くんは驚いたようにコチラを見てた。それから


「別に〜楊ぜんさんと師叔って仲いいから知ってるかなぁって。
二人っていつも一緒だから、それだけさ」
「・・・・・あ・・・・そう」


師叔が嫌がるせいもあって二人のことも、一緒に住んでいることも周りには秘密にしてあった。
でもこれじゃあ公然の秘密だ。あの人がコレを聞いたらどう思うだろう。
顔を真っ赤にして、らしくなくおろおろして・・・・・、それから・・・。




そう言えば・・・あの印はまだあの人に残っているだろうか。








校門のところで、じゃ、と言って天化くんと別れた。
僕もそのまま帰ろうとしたけれど、一度ちらりと職員室のほうを振り返ってみる。


いないのはわかっている。


いつもはどんなに仕事が遅くなっても二人一緒に帰った。
いい加減一人で帰るあの家が嫌だ。


「あれ、お前先帰ったんじゃねぇの?どうしたんだよこんなところで佇んで」


職員室を見つめたまま突っ立っていた背中をいきなりぽんっと叩かれ、振り向く。


「姫発」
「シケた面してんなぁ・・・どうしたよ」
「別に。どうもしませんけど」


何でもないように装って言った僕に姫発は少し考えてから、ニヤッと笑った。


「わかった!女に振られたんだろ!?いや〜お前でもそんなことあるんだなぁ」
「違いますよあなたじゃあるまいし」
「まあまあこれでも吸って気分転換しな」
「だから・・・・って、コレ・・・。あなた仮にも生徒会長じゃありませんでしたっけ?」
「まっ固いこと言うなって、センセじゃあるまいし」


ニッと笑い差し出したタバコを僕に渡す。そして自分も口にくわえシュッと火をつける。
ほらよっと投げてよこされたライターを少し眺めて。
見渡せば校庭には誰もいなかった。









肺いっぱいに吸い込んだ煙をふうっと一気にはきだす。
やっぱり家には帰る気になれず、姫発と別れたあともまだ学校に残っていた。
校庭の隅に備え付けられている長椅子にすっかり腰を落ち着けている。


(ああ・・綺麗だ)


白い煙が分散し風にふかれて消えてゆく。
そいつが妙に夕日に絡んで、思わずあの人の顔を思い出してしまった。
前にもこうして夕日を見たことがあった。
その時は当然あの人もいて、でも僕はどちらかといえば
夕日に反射して輝く彼の横顔ばかり眺めていたっけ。


「まぁ振られたっていうか・・つれないっていうか・・・ねぇ」


呟いて、もう一度煙を吸い込み今度はゆっくり長く煙を追い出す。
出掛けてから一日目には電話があったもののそれ以来はかかってこない。
忙しいのだろうと思いつつもコチラから電話してみればいつも留守電で。

もう何日師叔の声、聞いてないかな。







君が僕だったら君はどうだろう?




僕がいなかったら君はどうだろう?








「なんか僕ばっかり想ってるみたいで悔しいなぁ・・・」


いや。それはそれでも構わないが
相手の気持ちを知っているという時点で人は欲深くなるらしい。
あの人に逢ってから気づいたが、独占欲の強い自分なら尚更だ。
できることなら想っていて欲しい。出来ることなら自分だけを。


「一週間って長・・・」


そろそろ短くなってきたタバコをイスに押しつけ、吸い殻はきちんと近くの屑籠に捨てる。
そう言えば師叔はタバコ嫌いだったっけ・・・


何に関してもまた彼のことを考えてしまう自分に、いい加減笑えてきた。







夕日がキラリと眩しく、風が光るのが見えた。








それから、ちょっと久しぶりに





ケータイが鳴った。
















革命の終わりが見えすぎて。それでもって胸が張り裂けそうだ。



























「おう楊ぜん。元気か?」


久々に聞いた声はなんともお気楽で、一瞬がくっと肩の力が抜ける。


「師叔・・・・元気ですけど。どうしたんですか?今日帰ってくるハズじゃなかったんですか?」
「む〜それがのう。先生方が離してくれんのだ」


あ。やっぱり。


「えらく気に入られてしまってのう、飲み会に誘われてて・・・明日には多分帰って来れるから・・」
「嫌です」
「・・・は?」
「あなたが早く帰って来てくれないから、僕、あなたのことばっかり考えちゃうじゃないですか」
「はあ」


訳がわからないといったふうに生返事を返すその声さえも今は愛しい。


「あなたがいないから普通に一人で家帰ったりするし、あなたがいない家なんて嫌だし」
「・・・子供だのうお主」
「どうせ僕はガキですよ。あなたがいないとダメみたいなんです・・・」


恥ずかしい。


でもそれもいい。


あなたがいないというだけでこんなに情けない男になれる。


「おーい楊ぜん?あのな、やっぱり今日帰るから。夕飯ちゃんわしのぶんも用意しておいてくれよ」
「・・・・飲み会はいいんですか?」


師叔の言葉に、内心もの凄く嬉しくて、でもそれを出すとまた子供だと笑われそう。
でも伺うような問いは、努力も虚しく思いっきり嬉しさが表れてしまったようで。



気づけば何だか笑っていて。彼にも笑われていた。



ああ、もう。















「じゃ、そういうことだから。ちゃんと夕飯用意しておくように!」
「はいはい」


まだ笑い足りないようにくすくすと微笑み、名残惜しいけれど、じゃあ切りますよ?と
携帯の電源を押そうとしたとき微かに声がした。




「・・・・・お主がガキならわしもガキか・・・」




え?





慌てて電話に向かったがもうツーツーと電子音が流れているだけ。


「ズルイ人だなぁ・・・」


ふふっと微笑んで今度こそ電源を切る。


彼も僕と同じだった、と自分に都合良くも考えてもよいのだろうか。
まあ、帰ってきたら問いつめてあげればいい。


「夕飯何にしようかな・・・・あ、そうだ。布団干しておけば良かったなぁ・・」


あんなに嫌だった家への帰り道も今日は、今は、いい感じ。


君のことを考えるだけで単純な僕は幸せになれるのだ。





君がいなかったら僕はただのぼけっとした恋する男で。
でもいてもいなくても、結局はただの恋する、あなたに溺れた幸せな男。


あと数時間後には電話越しじゃない、生の君と君の声がまっている。


当然、君がいなかった頃の腑抜けた僕じゃ格好悪いから気合いを入れよう。





ああ。なんか、もう。















君がいなかったら僕は平凡だ。
































僕がいなかったら君は平凡かい?






end




 

あははははははは!!!!!(お願いだから笑っておくれ!!)
これが生徒×先生小説ってほざいたら殴りますか?いや、いいですむしろ殴ってくださいぃ!!
メリクリイラストアンケートでなにげに多かった設定でやってみたんですが。
その他にも色々萌え設定を書いて頂けたので
それをつかってまた御礼小説としてアップしたいですvv
しかし・・・。うーん・・・やってしまった・・。オータムストーンでやってしまった・・・。
BGMはオータムの「君がいなかったら」。
一度やってみたかったんです楊太で・・。うう。
いいからいっぺん死んどけって感じですか?(死)