今年最後の31日も、例年通り寒いから。






コタツムリ






「はい、今日はこれまで」
「有り難う御座いました先生っ」

12月31日大晦日夜。
大掃除やら何やらは昼までに全部済ませ、太公望と楊ぜんは今年最後のお勉強をしていた。
といってもカテキョの時間というわけではなく、ただ単に楊ぜんの宿題をみつつ太公望も自分の宿題を片付けていただけだったが。
要するに、一緒に宿題なんかしながら大晦日を過ごすくらい二人は仲良しだということである。

「あ〜疲れた!」
「僕もー」

これで冬休み終わるまでいっぱい遊べるのう、と笑っていえば、楊ぜんも喜んで頷く。
楊ぜんとしては宿題も終わったし、今すぐにでも遊んで欲しいのだが、肝心の太公望はこたつに潜り込んでしまっていた。
寒がりの太公望は楊ぜん宅のこたつをいたくお気に召している。
長方形の大きなこたつは足を十分伸ばしても外に飛び出ることはないし、真新しいこたつ布団はふかふかで暖かい。
全身で温まるよう、頭だけ布団の端から出してぬくぬくと過ごすのが太公望のお決まりのパターンになっていた。

「ねえすーす、暑くないの?」
「うむ、あったかくて最高じゃよ。やっぱりお主のとこのこたつはよいのうv」
「ふーん・・・」

満足げに微笑む太公望に、お行儀良く座ってこたつに入っていた楊ぜんが面白くなさそうに頬を膨らませる。
いつもは楊ぜんのそんな変化に聡い太公望だが、こたつの暖かさに気をとられていて気付いていないようだった。
楊ぜんもこの大きなこたつは好きだけど、最近ちょっと嫌いになっていた。
だってすーすをとられちゃうから、なんて理由を聞いたら、きっと太公望は飛び起きてしまうだろうが。



構ってもらえなくて暇を持て余していた楊ぜんは、そうだと思って立ち上がる。
食べることに目のない太公望だから、みかんでも持ってきたら起きてくれると思い、ダンボールごと買いだめしてあるみかんを取りにいく。
柔らかくて甘そうなのを2〜3個かかえ、楊ぜんが部屋に戻ると太公望は何かもそもそと動いていた。

「すーす?」
「ぬー・・届かぬー!」

こたつにすっぽり潜り込んだまま、あと一歩届かないテレビのリモコンを必死に引き寄せようとしている。
楊ぜんの問いかけにも気付かず、終いにはこたつをずるずると引きずって目的のものまで這っていく太公望に楊ぜんはぷっと吹きだした。
流石に気付いた太公望だったが、何故いきなり笑われているのか分からず首を傾げる。
その仕草に、楊ぜんは益々笑ってしまった。

「な、何がそんなにおもしろいのだ?」
「だって・・、だってすーすカタツムリみたい!」
「カタツムリ?」

うんっと言ってまた笑い出す楊ぜん。
太公望は今の自分の状況を思い出し、ああ、と納得するが途端に恥ずかしくなってくる。
いい年した高校生が小学生に笑われているのだ。
笑われてもしょうがないことをしたのは分かっているが、楊ぜんがあんまり面白そうに笑うから太公望の中にふつふつと悪戯心が沸き上がってくる。
まだクスクスと笑いながら、持ってきたみかんをハイと差し出す楊ぜんの手を太公望は突然ぐいっと引っ張った。

「わっ!」
「捕獲じゃ!」

文字通り捕獲され藻掻く楊ぜんを、太公望は簡単に抱き締めてこたつの中に引きずり込む。
みかんは上手いこと脇によけ、後で美味しく頂くことにする。
でも今は。


抱き締められて大人しくなった楊ぜんに、太公望はにやりと笑った。


「わしは人食いカタツムリだからのう。お主を食べて身体の一部にしてしまったから、お主も今からカタツムリじゃ」
「僕を食べたの?」
「うむ。お主は可愛いから美味しかったのう」

悪戯っぽく言えば、楊ぜんは楽しそうに微笑んだ。
その笑顔に太公望もメロメロで、抱き締めていた身体を一層強く抱き締める。
こたつという殻の中でふたりはじゃれあい、自室に行こうと通りがかった玉鼎に苦笑されたほどの仲の良さであった。
しばらくそうして、ふっと楊ぜんが呟く。

「でもすーす、ダメだよ」
「?何がだ?」
「すーすが僕を食べちゃ。僕がすーすを食べるんだから」

やっぱり、にっこりと笑う顔は誰よりも可愛かったが。




・・・パタリ。

クリスマスでの大胆発言に勝とも劣らないセリフに、太公望はまたも脱力する。
だからどーゆー教育しておるのだ玉鼎は・・・・・。
ああでも、教育ということに関しては一応家庭教師なのだし、わしにも問題ありかもしれない。
どーゆー教育しておるのだわし・・・・。

不思議そうに首を傾げて覗き込んでくる楊ぜんの仕草に、太公望はたまらずその小さな身体を抱き寄せる。
そして突然のことにも嬉しそうに擦り寄せてくる額に、ふいうちでちゅっとキスをしてやった。
驚いている楊ぜんが可愛い。
そのあとにっこり笑った笑顔はもっともっと可愛かった。

「ねえ僕もすーすにしていい?」
「ダメ。お主が大きくなったらな」
「えー」

片方の頬を膨らまし不満を訴える楊ぜんに、太公望はさっきのお返しとばかりにぷっと吹き出す。
可笑しそうに笑う太公望に楊ぜんも笑い出し、いつのまにかこたつに潜り込んでいた哮が何事かとちらっと身を起こした。
どうやら哮はこたつで丸くなる犬らしいと、二人でくくくっと笑っていると、遠くで除夜の鐘が聞こえてくる。



幸せな大晦日。
来年の今頃もこんな風であればいい。



テレビでは新年へのカウントダウンが始まっていた。


































「師叔、またそんな格好して」

太公望ご所望のみかんを用意して戻ってきた楊ぜんは、相変わらずこたつを占領する太公望を見て苦笑した。
こたつの端から白いふわふわしっぽが覗いているということは、哮も相変わらずなのだろう。
笑いながら傍らに膝をついた楊ぜんを、太公望は拗ねたようにジロっと見上げた。

「寒いのだから仕方ないであろう」
「ここ、一応僕のうちのこたつなんですけどね」
「何を今更」

太公望が楊ぜん宅のこたつでカタツムリになってしまうのは、もういつものことである。
何年も前から、大晦日はいつもこう。
鳴り出した除夜の鐘を聞きつつ、テレビのカウントダウンを見るのも二人で、だ。

見上げてくる瞳に、見上げるのはいつも自分の役だったなとクスっと笑い、楊ぜんは色づく唇にそっと口づけた。

「ん・・・・、卑怯者め」
「大きくなったらしていいって言ったでしょ?」
「あーもう・・・わしの可愛い楊ぜんを返せっ」
「今だって可愛いじゃないですか」

どこがだ!と言いたいが、楊ぜんは楊ぜんで今も昔も可愛い生徒に変わりはない。
生徒以上に可愛がっている事実は二人以外まだ誰にも秘密だが。
カウントダウンが10、9、8・・・となっているのに気づき、太公望は膝をついたままの楊ぜんにこたつの布団をめくって見せる。

「ほれ、わしが食ってやるから中に入れ」
「・・・・だからダメですって」

そういいつつも、楊ぜんは嬉しそうに太公望の横に滑り込み、その身体をぎゅっと抱き締めた。
毎年この場所で、お決まりのタイミングで、お決まりのセリフ。

幸せな今年最後。




「僕が、師叔を食べるんですから」







・・2・・1・・0!!















あけましておめでとう。

今年も変わらず幸せに。
















A Happy New Year !!

 

明けましておめでとうございます。

クリスマスに引き続き生徒×カテキョでした。
師叔は元始と暮らしてるんですが
やっぱりジジイと寂しく過ごすより可愛い生徒と一緒に年を越したいでしょう。
で、元始はひとり寂しく家で年越し。
玉鼎も部屋で一人で年越しです。(一番可哀相な人)
小学生でも楊ぜんはやっぱり攻だということが分かって頂ければ幸いかと・・・(笑)

2003年のお正月に配信させて頂きました。