今日は僕の二十歳の誕生日




コウナイエン





普段は料理なんて面倒くさいと言って滅多に作ってくれないのに。    
今キッチンにたって包丁を握っているのは、僕の可愛い恋人。


動くたびにエプロンのフリルが揺れて。知らず顔が緩む。
料理を作る後ろ姿を見るだけで何だか新婚さんのような気分になってくる。


「楊ぜんー。もうすぐ出来るからな」
「いい匂いがしますね。師叔本当は料理上手なんだからもっと作ってくださってもいいのに」
「イヤだ面倒くさい。今日は特別なのだっ」


師叔が夕飯を作ってやると言い出したのは昨日だった。
大学から帰る電車の中、突然そんな嬉しいことを言ってくれるから思わず抱きしめそうになった。
ちゃんと家に帰ってから思う存分抱きましたけどね。
師叔が料理を作ってくれる。僕のために。


スープの味見をする姿も可愛らしい。火傷したりしないかが少し心配。
その味が満足だったのか師叔がとても嬉しそうに笑った。
可愛い・・・・と口にでそうになった時。


ズキッッ!!


「楊ぜん?」
「・・いえ、なんでもありませんよ」


あまりの痛みに声が漏れてしまったみたいで師叔にも気付かれてしまった。
今度は聞こえないよう、小さく舌打ちする。


昨日は眠れないくらい嬉しくて、ずっとこの時を楽しみにしていた。
師叔の手料理だと思うだけで顔がニヤけ。
ドキドキしながら眠りにつこうとした僕に・・・・・・・・突然「ヤツ」が訪れた。
遠慮もなしに住みつきだし痛みを増していく。
まさに天国から地獄・・・・・。


「出来た!のう楊ぜん、皿出してくれぬかー?」


せっかくあの師叔が料理を、僕のためだけに料理を作ってくれたというのに。
こんな幸せはない。
けれど。だけど。


口の中がメチャクチャ痛い。


僕の幸せを邪魔するヤツ。


そう。・・・・その名も恐怖の・・・・・『口内炎』・・・・・!






今日は僕の二十歳の誕生日。
だけど何故お前が僕の口の中にいる?


(まぁ・・・落ち着いて目の前を見ろ)


机に並べられたおいしそうな師叔の手料理。色々と手が込んでいて少なからず愛情を感じる。
僕の反対側には師叔が座っていて恥ずかしそうに微笑んでいる。


「誕生日おめでとう楊ぜん・・・・。口に合うかどうかわからぬが・・わしからのプレゼントじゃ」
「有り難うございます師叔。とても嬉しいです」


ニッコリと微笑むと師叔の顔が赤くなった。
エプロンの裾で必死にそれを隠そうとする仕草が死ぬほど可愛い。
これは絶対口にしたい。師叔のためならひきつるような痛みにだって耐えてみせます!
誕生日プレゼントだというなら尚更。感動したさ。涙だって滲むくらい。
だからヤツがいようと僕には関係ないね。


「のう・・・食べてくれぬのか楊ぜん・・?」
「・・え!いえっ、ちゃんといただきますよ!」


なかなか料理に手をつけようとしないのを不安に思ったのか戸惑う瞳に覗き込まれる。
跳ね上がる心臓を落ち着かせながら、これ以上不安がらせないよう慌てて口に料理を運んだ。
口の中がメチャクチャ痛い。
だけど大丈夫。僕にはこの技がある!


頭を肩につくぐらい傾け、ヤツのいないほうへ食べ物を落とす。
重力にまかせ落ちたそれを素早く噛んで飲み込んだ。


「・・・・お主・・・変な食い方するのう・・・」
「そ、そうですか?・・それよりすごくおいしいですよ。師叔は食べないんですか?」
「今日は楊ぜんのために作ったのだ。お主に全部食べて欲しいのだ」
「師叔・・・・・・・・・・・ッタ!!」
「??楊ぜん?」
「ッいえ・・・なんでも・・ないです」


せっかくのいい雰囲気をぶち壊したのは紛れもなく「ヤツ」。
さっきの料理にレモン汁がかけてあったのか口にしみてものすごい痛みが伴う。
しかしそれを顔にださないのが天才だ。何でもないよう微笑んで次の料理に箸をつけた。
・・・・心の中では泣いていた。

今日だけはゆっくりと味わいたかったのに。僕のための師叔の手料理を、味がなくなるまで!
ヤツほど僕をイライラさせるのは、夏寝ている時にくる蚊ぐらい。
いったい何の目的で口の中に現れてくるんだ・・・。


「デザートもあるのだぞっ!」


やっとのことで食べ終えた僕の前にだされたのは桃のアイス。
コレが一番の自信作なのか師叔が僕の反応をわくわくしながら待っている。
可愛いなあと呑気に思う。
そして口の中のヤツを気にしながらスプーンですくって一口含んだ。


「・・・・・ゥ・・」


冷たさが痛みを増し、思わず唸る。幸い師叔には気付かれなかったみたいだ。


「どうじゃ美味いであろう?わしの得意料理なのだ」
「ええとても。・・・でも僕にはちょっと甘いかな・・・?」
「ぬぅ・・そうなのか。ちゃんとお主用に甘さひかえめにしたのにのう」
「確かめてみますか?」


うむと言ってアイスの皿に伸びてくる師叔の手を掴む。何・・と問いかける瞳に微笑んで。
強い力で引き寄せて可愛らしい唇に口づけた。


「ん・・・ふ・・・・っ」


最初は驚いて抵抗していたものの。
だんだんと口づけを深いものにしていけば師叔の力が抜ける。
唇をぺろっと舐め、一旦離す。名残惜しそうにピクンと揺れた身体がたまらなく愛しい。


「ね?甘いでしょ」
「・・・・まだ・・・・わかんない・・・・」


細い腕が僕の首にまわる。とろんとした瞳に見つめられたかと思うと師叔から口づけてきた。
恥ずかしがり屋の恋人がでた行動に今度はこっちが驚かされる。
一瞬ではなく長く合わせられる唇。
唇を割り、師叔の中に入り込もうと口を開いた。が、逆に自分の口膣に侵入される。
舌を絡めとられる感触が心地よい。
料理のお礼。今日のキスは師叔の好きにさせてあげよう。


「・・・・・ッッ・・・!」
「!!?・・・よ・・?」


不意に師叔の舌が痛みの原因を掠めた。思わず肩を押して師叔を引き剥がしてしまった。


「あ・・・ス・・スイマセン!」


あからさまに傷ついた表情が、俯いて見えなくなる。マズイ・・。
頬に手をかけて顔を上げさせればそこには潤んだ瞳。ちょっとつつけばきっと涙が零れてしまう。
口の中がメチャクチャ痛い。だけどもうそんなことはどうでもいい。


「師叔・・・・あの・・」
「今日のお主変だ」
「それは・・・ヤツのせいです。ヤツが・・・」
「料理もあんまりおいしそうに食べてくれなかったし・・・」
「そんなことありません!!凄くおいしかったですよ!」
「いいや、そうなのだな・・・。マズかったならマズかったとはっきり言えば良かろう!?」
「ちょっと師叔・・!?」


勝手に自己完結した師叔はそのまま隣の部屋に籠もってしまった。
はっきり言わない自分も悪いのだが。
キスを拒まれたら誰だって傷つくだろう。それが特に師叔なら。
それもこれも全部コイツのせいだ。全部ヤツが悪い!!


その後はひたすら恋人のご機嫌とりで。
僕の誕生日は過ぎていった・・・。



いくら天才楊ぜんでも かなわぬ恐怖のコウナイエン!













end

 

 

 

なんかホントに歌そのまんまって感じの文章。
この曲を楊太文にしようと思った私の心意気を認めてください(は?)
でもタイトルで読むのやめようと思ったかたも多いのでは。
とにかく楊ぜんさん情けないー。
ってか王子にコウナイエンあるってのもどうよ。
師叔のキスをヤツごときで拒むなんてまだまだよ!!
ここでは微かに甘い雰囲気漂ってますが(?)
もとになった曲では全然そんなことないです。甘さ<おもしろさ
すごくおもしろい歌なんで一度聞いてみてくださいv
だけど私の中でブリトラの曲は常に、おもしろさ<切なさ(笑)




口内炎 song by BRUEF & TRUNKS

 

 

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