ホントは嬉しいくせに。



幸せ拒否症。



何かにつけて楊ぜんはわしを抱き締めようとする。
その度に殴って叱りつけて(酷い)抵抗しておるというのに。
二人きりのときだって耐えられないのに堂々と人前でもべたべたくっついてくるのだ。

「師叔v今日も可愛いですね」
「だー!!やめぬかダアホッ!」

今日も今日とてわしの1日は楊ぜんの熱い抱擁から始まった。
バシッと天才の頭を叩いてやると、何も言わせず逃げてやる。
後ろであやつが呼ぶ声が聞こえるが無視だ無視!

午前中は執務に追われ、楊ぜんと接触する機会はなかった。
それでも一段落ついた頃、皆はそれぞれ休憩に行ってしまい、執務室にはわしと楊ぜんが残ってしまった。
何だか楊ぜんがこっちを見ておる・・・。
間が持たなくなったわしはそそくさと部屋をでようとするが、やっぱり捕まってしまい、ずるずると中に連れ戻される。

「一人で何処かに行ってしまうなんてつれないですね・・・。折角二人きりなのに」
「う゛〜っ・・・離せ楊ぜん!離すのだ!」
「嫌ですよ。こんなに柔らかくてあったかい師叔を離せるわけありませんv」
「・・・・っ」
「こうしていると幸せじゃありませんか?僕はあなたが腕の中にいると思うだけで幸せです・・・」

ぎゅーっと背後から抱き締められ耳元でぼそぼそ囁かれる。
堪らなくて、一生懸命に身を捩るが離してくれない。
そりゃそう思わないでもないけど、でも・・・でも耐えられぬのだ。
わしがあまりにバタバタと暴れるので楊ぜんもようやく手を離した。

「そんなに嫌ですか?僕とこうすること」
「嫌だ」

即答して即座に執務室を飛び出す。
一度だけ振り向くと、がーんとショックをうけて項垂れる楊ぜんの姿。
悪いとは思ったけど、許せ楊ぜん!




執務室に戻るのは流石に気まずくて、午後からは仕事をさぼって中庭をぶらぶらしていた。
ちらっと執務室のあるほうを見て溜め息を吐く。
どこかで、あやつが探しに来てくれることを期待しているなんてどうかしておる。
拒否したのはわしなのに。
だけど。

「師叔〜!!」
「・・・楊・・ッ」

楊ぜんではなかった。
つい口に出してしまった名前に赤くなりながら、駆け寄ってきた天化を見やる。
わしの正面まで来た天化は何だか落ち着かない様子で。
何だ?と問うとやっと天化が反応した。
ぎゅっと抱き締められたのだ。

「な、なんだ天化?どうしたのだ!?」
「師叔っ!俺っちさっき楊ぜんさんから一本とったさ!嬉しいさ〜!」
「楊ぜんから?」

天化の話によると、昼休みに楊ぜんに稽古をつけて貰っていたらしい。
今まで一度として誰もあやつに敵うことなどなかったのに、それが今日は。
その喜びを誰かに伝えたかったのだろう。
抱き付いて喜ぶ天化は大きな弟みたいで、特別に好きにさせてやる。

(あやつが一本取られるなんて・・・・やっぱりわしのせいかのう・・)

天化が去った後あの項垂れた楊ぜんの姿を思い出しながら城の角を曲がると。

「にゅっ」
「師叔・・・」
「楊ぜん!どうしてここに・・・・ってまさか今の・・」
「僕は駄目で、天化くんならいいのですか?」

角でぶつかってしまった人物はまさに今まで考えていた人。
怒ったような悲しそうな顔をしておる。
見つめられれば、やましい事なんて何もないのに、わしはふいっと目を逸らしてしまった。
だって、これはしょうがない。
こやつの瞳は綺麗すぎる・・・・って何考えとるのだわし!

「あの・・・楊ぜん」
「もういいです。わかりました」

一瞬にして冷たい顔(わしはこの顔は好きではない)になった楊ぜんは、そう言って踵を返した。
こ、これはなんだか、ヤバイ?
というか一体何がわかりましたなのだ。

「待たぬか!その何でもかんでも自己完結する癖直せダアホ!!」

初めてわしから抱き付いてやった。
後ろから。楊ぜんはさすがにビックリして歩を止める。

「師叔・・・?」
「抱き締めよ」
「でも師叔は・・・」
「いいから抱き締めよ!」

くるっと振り返った楊ぜんにおずおずと抱き締められる。
もっと!というようにわしからぎゅっと力を込めると僅かに温かい胸へと引き寄せられた。

「僕とこうするの嫌なんじゃないんですか?」
「嫌だけど・・・・嫌じゃない」
「なんですかそれ」
「察しろダアホ。それでも天才か」

こんな時だけ鈍い楊ぜん。
わからない、と言う風に首を傾げる。
だんだんと顔が熱くなってきたのを感じるが、しょうがないから言ってやる。

「天化のことは何とも思ってないから抱き付かれても平気なのだ。だけどおぬしのことは・・・その」
「何とも思ってる?」
「・・・・っ・・だから、抱き締められると・・・ドキドキして・・・・」
「ドキドキするから嫌なのですか?」

楊ぜんの顔はいつのまにかいつもの通りに戻っていた。
いや、いつもより数倍機嫌がいいときの顔だなこれは。
そんな楊ぜんを見ながら、それでも問いにはふるふると首を振って答える。

「じゃあどうしてですか師叔?」
「う゛〜・・・・」

間近で瞳を覗き込まれ、とうとうわしは耐えきれなくなった。
とんっと楊ぜんの肩を押してじりじりと2、3歩さがる。
肩を押した腕はその形のまま、多分真っ赤であろう顔は下を向いて。
充分な距離を保てたと確認してから、わしをじっと見守っていた楊ぜんをちらっと見る。




「・・・・・・恥ずかしいからじゃ!」




それだけ言うとダッシュでその場から逃走した。
しばらくして後ろから楊ぜんの笑い声が聞こえてきて、わしは益々赤くなる。



だ〜!もう、そういうことじゃ!わかったな!!

 

 

その後密かに天化は楊ぜんに酷い目にあわされましたとさ(笑)
どうしてこんなにどうでもいい話書きたがるんだろうなぁ私は。