メガネの憂鬱。




そろそろお昼時。
師叔に何が食べたいですか、と聞いたらラーメンと言われた。
わざわざ食べに出かけるのも何だし。

市販のヤツで作るとしますか。

確か師叔の好みは、麺は硬め。
沸騰したお湯で2〜3分茹で、手早くざるで水気を切る。

「・・っわ」

一瞬目の前が真っ白になった。
湯から麺を出した時に立ち上った水蒸気。
本を読んだときかけてたメガネを、外すのを忘れていた。

かなり目の前が曇っていたが、面倒くさいのでそのまま。
そのうちもとに戻るだろう、と作業を進める。
あらかじめお湯で温めておいたドンブリに、スープの素をいれて新しいお湯を注いで。
麺を入れて、具で彩って出来上がり。

ちょうどいいところに、匂いにつられた師叔が台所にやって来た。

「ん〜匂いはいいが、何か安っぽいラーメンだのう」

「市販ので作ってますからしょうがないですよ。嫌なら食べなくて結構ですが?」

「食べる」

冗談まじりにそんなこと言いながら、2人で席につく。
イタダキマス。

師叔は、安っぽいとか、何かと文句言うわりにはいつもおいしそうに食べてくれる。
でも素直においしいというのがしゃくなんだろうな。
文句ばっかり言ってくる。
だけど最後はきっちり残さずごちそうさま、なんだから。
あなたの文句なんて可愛いだけデス。

「おいしいですか?」

「まあまあ」

んー可愛い。

「キスしたいなぁ」

「アホなこと言っとらんと早く食え」

本気で言ってるんですけどネ。

文句ばっかり言うあなたの口。
僕の作ったものを食べてくれて、ときどきはおいしいとか言ってくれたり。

僕を呼んだり。キスをする。

あなたの唇。



って、ラーメン食べながら何考えてるんだろう。

「お主・・・何をにやけておる」

「いえ、別に・・・」

いまだに師叔の顔(というか唇)をぼーっと眺め、ラーメンに手をつけていない僕を変に思ったのだろう。
そんなににやけてたかな?

師叔が不審な顔してこっちを見てる。
また師叔に何か言われる前に、さっさと食べてしまったほうがよさそうだ。

「・・ぅわ」

再び目の前ホワイトアウト。

麺を箸で上げた時に、湯気がふわっと立ち上ったのだ。
当然さっきの繰り返し。
完全にメガネが白く曇ってしまった。

「ぷっ・・・ハハハハハ!お、お主面白いコトになっておるのう!」

ムッ。
だってしかたないでしょう?
そりゃ白く曇ったメガネかけてラーメン食べてる姿はマヌケでしょう。
それが特に僕なら。

僕の姿に笑い転げてる師叔。
ラーメン食べるのも忘れて。

なんか、ちょっと意地悪したいんですけど。




「アハハハ・・ってぬおッ!な、なんじゃ!?」

曇りがとれかけてたメガネを、もう一度故意に曇らせて。
外したメガネを、今度は机の反対側にいる人にかけさせる。
イキナリ目の前が白くなったことに驚いて、師叔が慌ててとろうとするけど。

「んー・・!?」

見えないのをいいことに、僕は師叔に近づいて深い深いキスをした。
始めから深いソレに、師叔の抵抗は皆無に等しい。

うん。キスをするときの唇が、やっぱり僕は一番好き。
だけど、メガネはちょっと邪魔ですね。

キスが終わっても、熱い吐息のせいでメガネはいまだ曇っていて。
トロンっととろけたあなたの瞳が見えないのは、どうもうーん・・なカンジだけど。



「目隠しされてるみたいで、感じました?」



意地悪して言ったつもりだったが、師叔は何も言わず僕の首に両腕をまわす。
つまり、つまりコレって。


試しにもう一回キスを。



「・・・文句言わないんですか?」

「だって、・・・・・・・・・感じたし?」



白くなったメガネの向こうの、悪戯っぽい瞳は見えないけど。
師叔はにやっと笑ってそう言った。



ああ、やっぱりキスよりも。
ときどき、素直な言葉をくれる唇が一番デス。


 

メガネって結構長い時間くもってたりするのですよ。
というかこの人達ラーメンはどうしたって感じです(笑)