耳元にくちびる
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携帯電話とは便利なもので、いつどこに相手がいても大体連絡がとれる優れものだ。


いつも家でのんびりだらだらしてるわしにとっては別にそうでもないのだが、忙しく働いている彼にとってはなくてはならないものらしい。
今もちょうど、彼…というか楊ぜんから着信中。
最近忙しくて会ってないからといって、毎日頻繁にかけてきては声を聞きたがるし聞かせてくれる。


「もしもし師叔?」
「お主もよく続けるのう〜…男がマメなのは良いことだが、飽きぬのか?」
「ありえませんね。僕はこうやって師叔の声を聞くために仕事だって頑張って早く終わらせてるんですから!」
「……わしは、飽きたな」
「は?え……っ」


ピッ


一方的に電話をきり、どうやっても連絡できないように電源もオフにする。
電話を切る間際の楊ぜんの慌てぶりに、わしは思わずにやりと笑ってしまった。
会話中にかすかに聞こえてきたラジオの音からして、奴はきっと自宅にもどる車の中からかけてきたのだろう。
わしはしばらく完全に真っ暗になったディスプレイを眺めていたが、それをぽいっとベットに放り投げた。
静かな通りに響くエンジン音が、うすっぺらなアパートの壁の向こうから聞こえてくる。
外の階段を足早に下りると、丁度、見慣れたスポーツカーから楊ぜんが降りてくるところだった。


「よく来たのう」
「師叔……」


そんなに久々に見るわけでもないのに、何故か懐かしく思う自分が可笑しい。
手を伸ばせば届くような距離まで近づいて、色々と言いたそうな楊ぜんの頬にそっと触れる。

明日も朝早いというのに。
今はもう真夜中で、早く帰って寝ないと辛いだろうに。

その疲れて見える姿に悪いと思いながらも、わしは嬉しさに頬を緩めた。
わしの気まぐれにいちいち付き合うお主は、ホントにバカだ。


「っうわ…!」
「       」


頬に触れていた手をすべらし、耳を思いっきりひっぱり引き寄せてやって、そこに囁く。
耳を押さえてぽかんとしている楊ぜんに、わしは満足して笑った。


「わしは飽きたぞ?」


顔がよく見えるよう2、3歩距離を置き、今度は自分の耳をつついてみせる。
やけに冷たいのは、どうしてかのう?
それに引き換え、(思いっきりひっぱったせいもあるのだが)奴の耳は赤くて、もう一度触ればきっと驚くほど熱いだろう。


「まあ、そういうことだ」


そう言った直後に抱き締められ、わしも満足げにその背中に腕をまわした。



耳元に添えられた唇は熱く。
とけてしまいそうだよ。










”----------あんな電子音で、お主は満足か?”







end.