愛が足りない気がします。
「ぎゃ〜〜!!!」
夏の夜。
凄い悲鳴が家中、というかきっと外にも、響きわたった。
バタンッとドアが開く音がして、同時にバタバタと駆けてくる足音。
リビングでゆっくり雑誌をめくっていた楊ぜんが何事かと顔を上げ、悲鳴がしたほうのドアを振り返る。「楊ぜん!!たすけて〜!」
ドアを勢い良く開け、部屋に飛び込んで来たのは愛しい人で。
酷く慌てた様子でいきなり飛び付かれ、驚き半分嬉しさ半分。
取り敢えず事情を聞いてみる。
「師叔?何事ですか?」
「〜〜〜〜蛾がっ!!おっきい蛾がわしに襲いかかってくるのだぁ〜!」
「・・・・蛾?」
「暑いから窓開けて風呂に入っておったら、電気にいきなり蛾が飛び付いてきよって・・・っ!しかも風呂中を飛び回るのだ〜;;」
思い出すだけでも嫌なのだろう。
涙まで浮かべて訴えてくる太公望を宥めて、楊ぜんはふっと腕の中の人の格好に目を移した。
風呂に入っていただけあって太公望はほぼ裸。
頼りなさげに腰に一枚薄いタオルが巻きついているだけだった。
当然楊ぜんさん、盛っちゃうわけで(笑)
「師叔〜〜vvvv」
「ぎゃー!!楊ぜん〜いきなり押し倒すなぁ〜!」
「だってそんなに色っぽい格好して、誘ってるようにしか見えませんvv」
「アホか!?ってゆうかまず先にあの蛾を何とかしろー!後は好きにしてよいから!!」
「・・・・ホントですね?」
太公望は自分の失言にハッと口を押さえる。
が、時すでに遅し。
太公望が何か言う前に、楊ぜんは速攻で風呂場にダッシュしていた。
そして数秒後。(スゴイ)
「さて師叔〜vちゃんと蛾は退治してきましたのでさっきの続きをしましょうかv」
「あ、あの楊ぜん・・?さっきのは何て言うか・・勢いで言ったというか・・」
「ってゆうか師叔!今度からは窓なんて開けてお風呂に入らないでくださいね。覗き魔がいたらどうするんですか!」
「それはお主・・・・って、そうではなくて聞いておるか?楊ぜん・・・」
そんな会話の間にも、楊ぜんは太公望の身体をソファの上に組み敷いていく。
楊ぜんはまったく話を聞いていないようで、うきうきと事を進めている。
こういうときのこの男は何を言っても聞きやしない。
抵抗するのもバカバカしくて、太公望は諦めたように溜め息をついた。
いつもの定位置、両腕を楊ぜんの首にまわそうとして。
「・・・・・・ねぇ師叔」
当然の真剣な声に、ちょっと驚いて男の顔を見上げる。
やっぱり表情も真剣で。
「何だ?」
「もし、もしもですよ。僕の原型が虫だったらどうします?」
「はぁ・・・?」
何を言い出すかと思えば。
いつも嫌ってくらい強気なのに、何だか頼りなさげな声を出して。
バカだのう、こやつ。
虫は嫌いだけど、お主は嫌いではないのだぞ?
「・・・お主は、お主だ」
「師叔・・・・嬉しいです」
ぎゅうっと抱き締められて。
今度こそ熱い夜が、始まる。
・・・かに思えたが(笑)
「じゃあ、蛾だったらどうします?」
「・・・・・・・えーっと・・・・」
あからさまに視線を外し、そのまま泳がす。
楊ぜんはそれを許さず無理矢理太公望の顔を覗き込んだ。
答えを求めて強い視線を送れば、また気まずそうに目が逸らされて。
「・・・・・・お主はお主であろう・・・?;」
「・・・・何か、愛が足りない気がしますぅ・・・(泣)」
楊ぜんダメージ大により、熱い夜はおあずけってことで(笑)
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