by KUROMATSU
次の日も、楊ゼンは大学へ行った。
太公望は相変らずジャズをぼんやりと聞きながら、ゴロゴロとしている。
「流石に、飽きたのう」
プツリと電源を切る。
フと隅っこの方に置いてあるラジオが目にとまった。
そういえば・・・太公望は思い出したようにラジオを手に取る。
「最近ニュースを知らないのう」
電源を入れれば、ラジオ独特のノイズが耳に入る。
ザー
という音も、チャンネルをあわせてゆけば、人の声に変わるのだ。
丁度ニュースがやっていて、どうやら天気予報らしい。
・・・地方は梅雨前線の影響により暫くは雨が続くでしょう・・・
・・・・・・日中所々によりくもり。夜には激しい雨が降・・・・・われるでしょ、う・・・・
・・・・続いて、・・・・・・地方・・・・・・・
ふーん。と太公望はひとり相槌を打つ。
窓の外を見れば、相変らず灰色の空がどこまでもひろがっており、
いつ一雨きたって可笑しくない空模様。
どんよりと、空が迫ってくるような錯覚さえ覚える。
きっともう太陽なんて忘れ去られているかのような。
ムクリと太公望が起き上がり、聞こえの悪いラジオの電源を切る。
脱衣所の乾燥機の近くに行けば、自分が着てきた洋服が転がっていた。
もう既に綺麗に洗濯されて、乾いている。
懐かしいようなその洋服に着替えると太公望はサイフが在ることを確認する。
太公望はそのまま部屋を後にした。
いくらくもりだからって、人が歩いていないわけもなく、
こじんまりとした住宅街にはポツリポツリと人の姿が見える。
雨が降る前に、買い物を済ませておこうという魂胆だろう。
太公望は空を見上げた。
吸い込まれそうなほどの、灰色だった。
「いっそ吸い込まれたら楽であろうな」
ポツリと言葉をもらせば、其れはいとも簡単に吸い込まれて行くのに。
自分の体は地に足をついていて。
「まあ、今は良い」
まるで遠慮するように空に向かってそう云うと、
再び太公望は歩き出した。
じんわりと濡れているアスファルトの上に、しっかりと足をつきながら。
「じゃあね」
ガヤガヤと帰宅する学生で溢れ返っている中、楊ゼンもまた同じように挨拶をした。
「じゃあな、今度よんでくれよ」
相手も同じように挨拶をする。
「機会があればね」
微笑むと、背を向け、楊ゼンは歩き出した。
機会があればね。
表面上の付き合いとは、疲れるものである。
きっとそれは相手も同じで、本当によんでくれるなど、思ってもいないだろう。
楊ゼンは深く溜息をつくと、灰色の空を見上げる。
どんよりと、今にも一雨きそうなそんな空模様。
不意に思い出したかのように楊ゼンは自分の髪を掴んで見る。
こんな処で空をみるなんて
おぬしの髪は綺麗だのう
思い出して、楊ゼンは無意識に微笑んだ。
何時ものホームに、いつもの電車。
最初はごみごみしていた車内も、目的の駅に近づくにつれて段々とすっきりしてくる。
楊ゼンはのんびりと腰掛けながら、静かな町並みの風景が、右から左へと過ぎて行くのを
ぼんやりと眺めていた。
時折、ふみきりの音が耳に入るほかは、
電車が揺れる特有の音しか耳に入らない。
車内アナウンスが目的の駅をつげたときには、
既に楊ゼンが乗っている車両には人が居なく、
ぽつりぽつりと他の車両に居るくらいだろう。
何時もの駅で電車を降りた。