by KUROMATSU
駅前だというのに、店はあまりなくて、人も其処まで居ない。
電車に乗る前よりも、空が暗くなった気がする。
見上げてみれば、機嫌は最悪。
そろそろきそうな空模様。
「早く帰らなきゃ」
自分に言い聞かせるようにして、楊ゼンは少し歩むのを早くした。
案の定、マンションの入り口へついたと同時に、パラパラと雨粒が重力に従い落ちてきた。
どことなく安心して、部屋へと向かうエレベーターに乗り込んだ。
自分の部屋の階にたどり着けば、外は本当に真っ暗で、
時刻はまだ4時を回ったところなのに。
ピカっと空が光る。
「只今帰りました」
靴を脱ぎ捨て、疲れたというように、ソファに座り込む。
楊ゼンは直ぐに違いに気づいた。
「太公望師叔?」
薄暗い部屋の中には、自分の気配只一つ。
再び空が光れば、部屋の中も一瞬だけ光る。
楊ゼンはうざったそうにカーテンを閉めると、浴室に足を運んだ。
シャワーを浴びて、出てきてみれば、相変らず部屋は真っ暗で、
仕方なしに電気をつける。
朝家を出たときと何ら変わりの無い部屋が目に映った。
溜息を一つ。
それとビールも一缶。
最近あまりちゃんと聞いていなかったジャズのCDを、煩い雨音から逃れるかのように、かけた。
すぐにピアノの軽快なリズムがスピーカーから流れてくる。
何時もなら、別に大したことなく、好んで聞くこの音楽。
矛盾してるな。
そう、楊ゼンは思う。
矛盾している。
溜息を一つこぼした。
こぼしたついでに立ち上がり、冷蔵庫の中からビールをもう1缶ひっぱりだす。
そう、矛盾している。
軽快なジャズが部屋中に響き渡り、雨なんて降っていないかのような気分に浸れるのに、
まるで気分は反比例。
軽快になればなるほど、反比例して行くのだ。
煩いくらいにジャズを流して、別に、こんなときでも耳障りだと思わなかったのが不思議で。
楊ゼンはビールを飲み干すと、ゴロリと横になって、まどろんだ。
まだ5時になっていないというのに、外は真っ暗らしく、雨音が遠くのほうで耳に届いた。
ひっきりなしに降ってくる雨音が、気持ちの現れ。
軽快なジャズのピアノの音さえ、気持ちの現れ。