居心地も、座り心地もお気に入り。
お気に入りのトコ。
「おー・・・おぉvv」
「そんなにくるくるしてると目が回ってしまいますよ?」
「平気じゃっ」リビングの隅に備えられたパソコンラックとキャスター付きチェア。
楊ぜんはそのチェアに座ってくるくると回ってはしゃいでいる可愛い人を見て、やれやれと苦笑した。
ソファに腰をおろしてコーヒーを片手に、嬉しそうに、回るイスと戯れている太公望を眺める。
それは今日楊ぜんが買ってきたものだった。
パソコンラックを買った時はそれに合うチェアは買わなかった。
イスなんて家にいくらでもある、という彼の意見でその時は通したが、やはり専用のイスが欲しくなったのだ。
組立式であったチェアを、分かり難い説明書に四苦八苦しながら完成させた太公望は、それからずっと座ったまま離れる様子はない。
「気に入って頂けましたか?それ」
「うむvこれで快適にパソコンで遊べるのう〜。でもちょっと・・・・・色が、な」
「え?可愛いじゃないですか。師叔が好きな桃の色ですよ桃」
「でものぅ・・・こう、黒とか青とかもっと格好いい・・・うむむ」
実はそういった色のものもあったのだが、楊ぜんはあえてこの色にしたのだ。
自分もその色のイスに座ることになるがそれはまぁいいとして、太公望にとても良く似合うと思ったから。
言うと怒られそうなので楊ぜんは黙っていたが、桃色のイスにちょこんと座る姿が可愛くてその頬は緩みっぱなしだった。
コーヒーもいい加減冷めてきた頃、やっと太公望はくるくる回る遊びをやめる。
かと思ったら今度はイスの上げ下げに興味を持ちはじめたらしい。
このガス圧チェアはレバーを軽く押し上げるだけで、イスの高さが調節出来た。
座ったままレバーを上げればプシュゥという音と共に序所に沈んでいく。
「面白いのう!見たか楊ぜん?お主もやってみるか?」
「いえ、僕は遠慮しておきますよ」
「ぬー・・・こんなに面白いのに」
そしてまたイスに夢中になる太公望。
そんなことくらいで喜んでくれる彼は大変可愛らしいのだが、楊ぜんの機嫌は急速にナナメになっていった。
相手をして貰えなくてつまらない。
「師叔」
「んー?」
試しに名を呼んでみても気のない返事を返すだけで、こっちを向いてくれない。
広いリビングの中で二人だけのはずなのに太公望は新品チェアに取られたままでムッとした。
イスごときに嫉妬してどうするんだと思いつつも、楊ぜんの瞳はどんどんきつくなっていく。
ふいにコーヒーカップを置くと、立ち上がった楊ぜんはつかつかと太公望に近づき、いきなり抱き上げた。
突然の浮遊感に大きな瞳をぱちくりさせる人には構わず、再びソファに腰をおろす。
勿論太公望は楊ぜんの膝の上。
背後から抱き締められた感覚に、太公望はやっと声を上げる。
「な、何なのだお主は突然!?どうしたのだ?」
「・・・こことどっちがいいですか?」
「はぁ?」
「だから、イスと僕の膝の上」
「・・・・・はぁ」
ジタバタとした抵抗も結局は無駄なのだと知り、太公望はぽてっと背後に身体を預けた。
楊ぜんの拗ねたような声音に、まったく・・・と軽く溜め息を吐く。
覗き込んでくる瞳と、ねぇ、と急かす唇が肩越しに近くて、くすぐったくって身を捩った。
温かい胸に凭れて逞しい腕に包まれて、絹のような蒼髪が肩を滑り落ちていく。
「ねぇ師叔、どっちがいいですか?」
唇は肩口に。
触れた吐息が熱くて太公望の可愛らしい耳が桃色に染まっていった。
「あー・・・・・・・・・、イス・・・」
「えぇ!?」
「・・・・じゃないほう」
「師叔〜vv」
幸せな午後のリビングルーム。
桃色チェアは大差で(?)楊ぜんに負けてしまったようだ。
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