こんな胸大嫌い。
ペチャパイ 前編
そろそろお腹もぐうっと鳴きだしそうな4時間目。
どうして体育なのだ、といつもの如くぶつぶつ言いながら更衣室で着替える。
お腹が空いていたら力も出ないしやる気もでない。
そんなわけで早々に更けようとしていたところを隣で着替えている親友に捕まった。
有無を言わせぬ笑顔で「何処行くの?(ニッコリ)」と脅されて(?)しまえば逆らいようがない。
後で購買でパン奢ってあげるからと宥められ渋々保健室直行は諦めたが
実はパンのことなどどうでもよかった。
力がでないからなんてただの言い訳。
「ねえ望ちゃん」
ブラウスのボタンに手をかけたとき隣の普賢に話しかけられた。
嫌だなとこっそり思いつつそちらを向く。
「最近楊ぜん君とはうまくいってるの?」
「ふっ普賢!声が大きい!!」
「あ、ごめんね。で、どうなの?」
「べ・・・別に・・・。う、うまくはいっておる・・と思う」
周囲をキョロキョロ見回し誰にも聞かれていなかったのを確認し安堵の息を漏らす。
楊ぜんとは、同じクラスで一緒に学級委員を務めている人物。
品行方正なその性格とともに美しすぎる容姿も学校中で有名になっている。
女だったら、いや、男でさえも見惚れてしまう程の美青年で頭も良いとくればモテないはずもなく。
周りには内緒にしているが、唯一親友の普賢だけは知っている。
いつも話題の中心の彼。
それがこの呂望の恋人だった。
「楊ぜん君って結構遊んでたって一部で噂になってるし、僕心配なんだよ」
「あやつはそんな男ではないよ」
「望ちゃんを泣かせたりしたら絶対私刑にしてやるんだけどなー」
それなりに恐ろしいことをさらっと言い流す普賢に背中に冷や汗を感じつつ微笑んでおく。
その時はちゃんと相談してねと言う言葉を聞きながらふっと視線が胸元のあたりで止まった。
着替えの途中での会話に当然そこははだけていて、呂望はバッと視線をはずす。
「望ちゃん?」
「な・・なんでもない」
そう?と首をかしげ体操服に着替えていく親友をちらりと見て
それから気付かれないようため息をついた。
他の子にはあって自分にはない・・・。
それを思い知らされるから。
「体育なんか大嫌いじゃ・・・・」
「位置についてー・・・・」
パンッとピストルの乾いた音を合図に勢いよく飛び出す。
50メートルなど短い距離ですぐにゴールを果たした。
「すっごい望ちゃん!7秒台だよ!」
「逃げ足だけは早いからのう」
ストップウォッチをもって駆け寄ってくる普賢に微笑み腰をおろす。
その隣に座りこんで、まだスゴイと褒める普賢に照れていると
先程一緒に走った女子の話が聞こえてきた。
「もー全然早く走れない!」
「あんたの場合この大きな胸が原因だからねー」
「自分だってそうでしょうが」
「まあね。小さい人はこういうとき羨ましいよ」
「ねー」
どきどきどき・・・
きっと自分の事を言っているわけではない。
気にしないよう努めてみても、自然とそこを隠すように丸まってしまう。
膝を抱えて俯いてしまった呂望に普賢が心配そうに声をかけようとした時、再びピストルの音。
と同時にキャー!という少女独特の甲高い声がグランドに響く。
少し離れたところでは同じように男子が50メートルのタイムを計っていた。
そちらに向けての歓声と気づき顔を上げて見やった時にはすでにゴールする瞬間だった。
「あ・・・」
後ろで一つにくくられた長い蒼髪が靡き、風を斬る。
ゴールした後乱れた髪を掻き上げる姿にさえ心臓が跳ね上がるのを感じそのまま見とれてしまう。
それは自分だけではないようで、楊ぜんはすべての者の視線を独り占めにしているようだった。
まだキャアキャアと騒がしい中ぽーっと恋人のほうを見ているとパチッと目があう。
とろけるように楊ぜんに微笑まれ頬が熱くなっていくのは隠しきれない。
嬉しそうにこちらに向かってくる彼に話しかけようと立ち上がる。
「キャー!見た見た!?楊ぜん君、今私のほう向いて笑ったわよ!?」
「何いってるのよ!私のほうよ!!」
ちょうど呂望達のすぐ前に立っていた彼女たちがはしゃぎだし、歩き出そうとした足が止まる。
2人で楊ぜんに駆け寄っていく。
「誤解されちゃったね望ちゃん」
「そのようだのう」
クスクス笑う普賢に呂望も微笑む。
けれど余裕をもってそれをみていられない自分がいて。
心に浮かんだ独占欲という言葉に苦笑する。
2回目のタイムを計るため移動しようとした呂望の目に嫌な光景がはいった。
迷惑そうに、しかしこんなところで怒鳴ることもできず
困っている楊ぜんの腕にしがみつく先程騒いでいた少女。
楊ぜんに次いでクラスでも学校でも有名な美人で彼を狙っているという噂はきいたことがある。
遠くて聞こえないが何事か言いながら彼に擦り寄る姿。
それを見ていられなくなった呂望はその場から走り去った。
「望ちゃん!?どうしたの?」
慌てた普賢の声に何か言いたそうな恋人の声が重なっていたが聞こえなかったことにする。
女の武器とでも言いたげに腕にぐいぐいと胸を押しつけて。
体操着はただでさえ身体の線を強調するのに。
自分の胸に手をあてれば、涙が溢れてきた。
だからこんな小さな胸は嫌いなのだ。
あの後ずっと元気が無い呂望を心配していた普賢に、大丈夫だよと安心させ家に帰った。
いつもは楊ぜんと一緒に帰るのだが今日は一人。
待ち合わせの場所でまたあの少女が楊ぜんといるのを見て声も掛けずに走って帰った。
頭を冷やすためシャワーを浴びる。
バスタオルで身体の水分を拭き取り、洗面台の鏡に自分をうつす。
白い肌にくっきり鎖骨が浮き出ており全体的に肉付きが薄い。まったく健康的には見えない身体。
自分の今の年齢を考えると、まるっきり子供の幼い肢体が呂望のなによりのコンプレックスだった。
特に申し訳程度に膨らむ小さな胸が。
「やっぱりあやつもこんな貧弱なのじゃ嫌だろうな・・・・」
楊ぜんとはまだそうゆう関係になっていないことがまた呂望の不安を掻き立てる。
その時になればこの小さな胸も幼い身体も見られてしまう。
今まで不自然にならないくらいにそうなることを避けてきたことも事実。
もしかしたら嫌われるかもしれない。
こんな身体じゃ楊ぜんに満足してもらえない。
「・・ってわしは何考えとるのだ////」
鏡にコツンッとおでこをあて、キュッと目を瞑る。
もうちょっと女らしい身体に成長すれば良かったのに。
楊ぜんにつり合うような、あの少女のような・・・・。
「嫌な女じゃのう・・・わしは」
鏡の中の自分に笑い、精一杯のため息を吐いた。
この小さな胸でもちゃんと愛は育っているのに。
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