こっちを見て









「のー、楊ゼーン。」
太公望は壁に凭れ掛かりながらのんびりとした口調で、哮天犬のブラッシングをする楊ゼンに声をかける。
楊ゼンは太公望の方を振り向かずに、何ですか・・・、と素っ気無い返事を返す。
太公望もなんでもない・・・、と答える。
初夏の緩やかな日差しの中、昼からの執務がカットされ、やる事のない二人はのんびりと午後を過ごす事を決めたのだった。
そして哮天犬のブラッシングをすると言い出した楊ゼンに太公望は付いてきた。
だが何もすることが無く、ボケっと青く澄み切った空を見上げながら素っ気無い会話が続く今にいたる。







「暇だ〜。」
だらけた声を出しながら、太公望は楊ゼンの横に周り顔を覗き込む。
楊ゼンはにっこり微笑み返しながら・・・。
「では、天化君や天祥君と一緒に武成王に稽古をつけていただいたらどうです?
師叔は普通の道士と比べて体力戦には弱いですからね、体を鍛える良い機会ですよ。」
と、サラッ途言い流す。
太公望はごめんだ・・、と舌をベッとだしてその場をブラブラと歩く。
手を後で組み、ゆっくり雲が動く空を見上げながら・・・。
自分にかまってくれない楊ゼンをどう『誘惑』しようかと思考をめぐらせて。



ブラッシングをする手を止めて、楊ゼンは自分の裏の人物に声をかける。
「・・・、何やっているんですか、師叔。」
心からの不満そうな声を出した。
「む・・・、何ってお主の髪を結っているのだ。」
さらさらと手のうちを流れて行く、楊ゼンの蒼い髪を掴み、太公望はみつあみを作る。
たまに、自分自身をその髪の中に埋もれさせながら。
「止めてくださいよ・・・、癖がつくじゃないですか。」
「おお、それも良いかも知れぬな。
お主だったら、なんでも似合いそうだしのう。」
とすこし皮肉交じりに言い、太公望は小さくクスリと笑った。
だが次の瞬間。
「なら勝手にしてください。」
と楊ゼンは太公望を無視し、ブラッシングを止めていた手を再び動かし始める。
さすがにその言葉に太公望も不満になり、もう良い・・・、と言うと再び壁にもたれるように座る。






だが、まだ太公望の頭の中は思考を続けていた。
どうすれば良いのか・・・・。
どうすれば楊ゼンの心は自分のほうへ傾くか・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
ニャリ・・・・、不適に太公望の口元が笑いの形をとった。
楊ゼンの弱い所をつけば良い・・・・、そう思い付いたからだった。
そう楊ゼンの弱い所・・・、イコール太公望のおねだり攻撃・・・・・・・。






太公望はぎゅっと・・・・、楊ゼンの服の袖を掴み、そして、少し寂しそうな口調で・・・。
「すまぬ・・・、楊ゼン。
さっきのいたずらでもし怒ったのなら、・・・・許してくれ。
・・・、わしは・・・お主が構ってくれぬ・・・から・・・寂しかったのだ・・・。
哮天犬ばかり・・・見ずに、わしの方も・・・・少しは見て・・・・。」
おずおずと、口篭もりながら言葉を紡ぎ出す。
そして上目ずかいで楊ゼンの横顔を眺める。
すると楊ゼンはにこり・・・、と微笑みかけ。
「ええ、気にしてませんよ。」
といたって普通のに口を開く。
それに対して嬉しそうに本当か・・・、と微笑む太公望に向けて、次の言葉を放つ。
「ただ、師叔・・・。
無理におねだり攻撃をしようとしても今の状態バレバレですよ。
可愛い事には変りありませんが・・・、貴方は僕が少し怒ったぐらいでは折れませんからね。」
と苦笑しながら・・・、言う。
太公望はカチン・・・、ときて、喧嘩ごしに楊ゼンに向って口を開く。
「わかったわ、お主はわしより哮天犬が良いのだな!!!!
もう良いは、今後一切お主との関係を絶たせてもらう。
どうせわしは哮天犬のようにお主に忠実ではないし、かわいくもないよ。
じゃぁな、楊ゼン!!!」
聞いているこっちが、自分が何を言ってるのかわかっているのか・・・・、と突っ込みたくなるような、全くつじつまの合わない事を太公望は頭に思い浮かぶだけ口にし、駆け出して行く。
この後の太公望の行動を熟知している楊ゼンは、たぶん四不象を探しに行くのだろう・・・、そう思いながら一人苦笑した。
「僕のことを思ってくれるのは嬉しいんだけどね。」
その呟きに答えるように、哮天犬がクゥーンと一鳴きした。







「ご主人・・・、なにっスか?」
太公望に呼ばれ、四不象は急ぎやって来た。
だが、太公望を一目見た瞬間、楊ゼンと何かあったのだなと勘ずいたのだった。
普段ある程度温厚な主人を怒らすのは、楊ゼンしかいないわかっているからであった。
「普賢の元へ行く・・・。」
ブッス・・・とし顔でそう言うと、四不象にまたがった。
四不象は深い溜息を一つすると、
「ラジャーッス・・・。」
と、呆れぎみにつぶやき空に浮かび上がった。






周城が豆粒のように小さくなり・・・、やがては消えて行く。
崑崙山に向いながら、太公望はひたすら口の中で楊ゼンの悪口を呟いた。
それを聞きながら、四不象は今日何度目になるかわからない溜息をする。
喧嘩をするのは仲が良い証拠・・・、とはよく言うが・・、太公望の場合はその後の処理が大変だった。
機嫌を直すまで普賢の元に居座るだろうし、すると執務が遅れ始めるし・・・・。
結局は楊ゼンを崑崙山に向わさなければならなくなり、それこそ完璧に執務が遅れ、殷への進軍にさえ支障がでかねない。
いつもは他人優先で自分の我侭など一つも言わない、太公望の唯一の我侭だが・・・。
そんな主人と、今後の事を思うと四不象は溜息以外何も出なかった。
「楊ゼンのダアホ、女装趣味、変態、ショタコン・・・・・・・。」
そしてそんな霊獣の気持ちも知らずに、太公望はぶつぶつ楊ゼンの悪口を言いつづける。
「だれが、女装趣味で変態でショタコンですか?」
と・・・、太公望の頭上から呆れた声が帰ってくる。
「な!!!」
太公望は驚いたように上を見上げると、少し呆れかえた楊ゼンの表情にぶつかる。
楊ゼンは哮天犬から身を乗り出すと、太公望の体をぐっと引き寄せる。
「離せ!!」
暴れる太公望は、あっという間に楊ゼンに押さえ込まれ膝の上に乗せられる。
楊ゼンは暴れる太公望を抱きかかえながら、四不象に後は何とかするから・・・、と言うと空高く浮かび上がって行く。
四不象はほっ・・・と息をつくと、方向転換をし周城に戻っていった。








「離せ、この変態。」
ボカスカ楊ゼンの胸を叩きながら、太公望はまだ暴れていた。
楊ゼンに捕まった事が、よほど屈辱的なのか・・・、はたまた反対に恥ずかしいのか。
「それは良いですけど、今離したら貴方は死んでしまいますよ。
師叔は変化もできませんし、四不象もいませんしね。」
そう言い放つ楊ゼンに対して、太公望は言葉につまりおとなしくなる。
そんな太公望を見て、くすりと微笑むと、楊ゼンは口を開く。
「構って差し上げなくてすみません・・・・。
哮天犬には貴方を乗せるんですからね、綺麗にしておかないと思ったんです。
それに僕の大切な相棒ですから・・・・・・。」
優しく微笑みながら哮天犬の頭を撫でる・・・、するとクゥーンと嬉しそうに鳴く。
太公望はそんな楊ゼンの顔を見ながら、くすりと微笑む。
「楊ゼン、今日の事は許してやる・・・。
だが・・・・・。」
黙り込む太公望。
「だが、なんです?」
不思議そうに太公望の顔を覗き込むと、太公望は上目ずかいに・・・。
「寂しくかったんだぞ・・・、ちゃんと埋め合わせしろ・・・。」
そっと・・・、呟く。
楊ゼンはそんな太公望をぎゅと抱きしめると・・・・。
「はい、今夜は離しませんからね。」
と・・・、太公望の耳元で呟いく。

そして自然と唇がかさなり合う・・・・・・・・。









哮天犬は静かに夕日が沈む空を切って突き進む。








 

 

 

 

 

 

風馬優様から頂きました〜〜☆
甘々最高!望ちゃん素っ晴らしく可愛いーーーー(>▽<)!
楊ぜんにかまって欲しくてしょうがない師叔のおねだり攻撃v
ツボにはいってしかたないです・・・・・・(うっとり)
今夜は離しませんからって・・・・・楊ぜんさん。おさえるべきところはちゃんと
おさえてて最高〜!さすがは王子☆★

風馬優さま素敵な小説ありがとうございました!!

 



 

 

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