タバコ
ギライ。

 

「煙草。嫌いって言ったのに」

ゆらゆらゆら。
空中を漂う紫煙が大嫌い。

「わしの前で吸うな、ってか禁煙しろと言わんかったか?」

慣れた手つきで灰を落とす指先。
嫌いな匂いが部屋中を占領する。

「フフッ。身体、心配して言ってくれてるんですか?」

わしは怒っておるのだぞ。
嬉しいそうに近寄ってくるな。
煙草吸うやつなんて嫌いダ。

「ただ単に嫌いなだけ」

「どうしてそんなに嫌なんです?」

そりゃ吸ってる本人には、イマイチわからんわな。
そこがまたムカツク。
主流煙と副流煙って知っておるか?
吸ってない人間にまで、煙草ってやつは害を及ぼすのだ。

「・・・ゴメンナサイ。考えなしデシタ」

素直でよろしい。

「でも。一番嫌いなのは匂いだな」

「そんなに気になるもんですかねー・・・」

もんなのだよ。

ここは、お主の部屋で、お主のベットで、お主の腕の中、なのに。

「っわ!師叔・・・何ですか突然」

がばっと。広い胸に抱き付いて。
そのままそうしてたけど。

「・・・・・やっぱり、お主の匂いがせぬ。ヤダ」

嫌な煙の匂い。それが好きな匂いを邪魔してる。

いつも自分だけを映す紫の瞳は、その時だけは煙を追って。
優しく触れる長い指先は、別なものを愛しそうに摘みあげて。
口寂しいなら、わしがおるだろう。

 

自分を好きだという唇で。わしの嫌いな煙草を吸うでない。

 

「誘ってます?」

「煙草やめるか?」

指先が頬を撫でる。
長い髪がさらっと肌を掠めた。

あ、ちょっとお主の匂い。

「やめます。あなたに嫌われたくないから」

「ん」

じゃあ、さっきの嫌いを訂正してやろう。

そのかわり。

「お主の匂い、好きだよ」

 

好きだよ。

 

 

タバコの煙が死ぬほど嫌いデス。
そんな私の私心も入りつつな謎楊太ss。
タバコに嫉妬する師叔でしたー。