++冷たいのね。










「嗚呼師叔。こんな所で居眠りしては、風邪を引いてしまいます」

コタツにどかっかりと潜り込んで、転寝をしている太公望を見つけると、楊ゼンはクスリと微笑んで、丁度頭の上あたりに腰を下ろす。



「ん〜〜〜〜〜〜」

ぷかぷか、足を突っ込んだ処で、現に呼び戻されたのか、太公望はぐぐっと腕を伸ばし、思い切り伸びをすると、ごしごしご閉じている眼を擦る。

そんな様子をそっと見ていた楊ゼンは、うつぶせて眠っていた為、額にピタリと張り付いてしまった前髪を、そっと払ってやる。




眠気を帯びている所為か、彼の額は常よりは少し体温が高く、暖かい。


感触を楽しむかの如く、楊ゼンは額を優しく撫でるのだった。





大きな欠伸を一つすると、パチリと重い目蓋の下から翡翠のくりんとした瞳が覗いた。



しばしばと、瞬きを繰り返す彼の頬を、大きな手で包み込み、其の眼を覗き込む。


太公望が、ピクリと少し顔をしかめた。




「むう、」

もう一度欠伸をすると、頬に乗っている手の上に、自らの手を重ね、じぃっと楊ゼンを見つめ、



「おぬしの手。冷たいのう」

縋るように更に彼の手を頬にぎゅっと当てて、太公望は心地よさそうに云うのだった。




「師叔の手は、暖かいですからね」

自分の手の上に重なっている自分の手より小さい太公望の手からは、じんわりとぬくもりが伝ってきていて、相当自分の手は冷たいということが、窺えた。


楊ゼンはクスリと目を細めて笑うと、ぎゅむ。っと彼の手を握り締める。



「知ってます?」

意味ありげな眼で真面目に太公望の顔を見据えた。
急に真面目になられたものだから、ふらふら、あっちへ行ったり、コッチへ云ったりしていた、太公望の重心は、きちっと真中で止まる。




「子供の体温は、大人の其れよりも高いのですよ」

ニタリと今度は、何か企んだような表情で笑う。



「つまり。師叔の手は暖かいので、子供だって事ですね」

フ、と口の端を少し持ち上げて、からかいを含んだ笑みを浮かべ、彼の手の温もりを其の手に感じている。




「ムカツク」

声に棘を含ませて、太公望が云った。直ぐに手をぱっと離し、逸らされなかった眼から、無理矢理視線を外し、ぷいっとソッポを向いてしまうのだった。



「何時もわしの事子ども扱いしおって」

完全に反対方向を向き、くるりとコタツ布団に包まってしまった太公望は、不貞腐れたような口調で続ける。



「あー、はいはい。大人なおぬしは手が冷たくて当たり前なのだろう。どーせわしは手の暖かい、体温の高いガキだからのう」



そーやって、直ぐに不貞腐れる所が子供ですよ。

そう云おうとして、止めた。


楊ゼンはそっと手をついて、太公望の表情を覗き込む。サラリと長い髪が、彼の肩に垂れた。




「冗談ですよ。冗談。少しからかっただけです」

すっかり不貞腐れた太公望を宥めるように、楊ゼンは笑いながら謝り、ポンポンと肩をまるであやすかのように叩いた。



「御免なさい。師叔」

不貞腐れた様子が面白かったのか、未だにクスクスと笑いながら、何の反応も示さない太公望に謝り続けた。


然し、太公望は本当に気を悪くしてしまったのか、向うを向いたきり、ピクリとも動かず、まして、返事すらもしない。











「太公望師叔?」

いよいよ本気で怒ってしまったかな?


なんて軽く思い、笑うのを止めてふっと前に鏡、太公望の表情を見るのだった。結構間近にも関わらず、眼は会う事は無い。



ハア。と楊ゼンは溜息をつき、もう一度口を開こうとしたとき、彼よりも早く太公望の口が開き、声が出る。








「手の冷たい奴は、心が温かい奴だ」

口を尖らせ、少し不貞腐れたようにプ栗と頬を膨らませて、呟いた。



瞬間、楊ゼンは驚いたように目を見開き、
そして次には、
幸せそうに、ふわりと笑った。



「其れって、僕が心の優しい奴だと?」

満面の笑みで問えば、太公望は只只、顔を赤くするだけ。





「有難う御座います」

視線を合わせ、ニコリと本人にとっては無意識に、極上の笑みを浮かべる。





「ふんっ」

とうとう耳まで真っ赤になってしまった太公望は、口元までコタツ布団をかけて、チラリと楊ゼンの様子を窺うのだった。




少しの言葉で、こんなにも幸せそうになるなんて。






「どっちが、子供みたいなんだか」

モゴリと、自分でも聞き取れない程小さな声。






「何か云いました?」

それに気付いた楊ゼンは、小首をかしげた。





「どっちもどっちだな、と。」

今度ははっきりと声に出して云ってみせたが、意味までは通じていないだろう。












fin.

 

 

黒松様から頂きましたv

黒松様のサイトKUROISMのクリスマス企画での小話です。
たくさん小話がある中で、全部はさすがに図々しいので
これだけでも強奪させて頂きましたv
子ども扱いされて拗ねてしまう師叔が凄く可愛いです。
こたつ布団に包まって不貞腐れる姿は楊ぜんじゃなくても微笑んでしまいますよ^^
だけど拗ねていたとおもったら「手が冷たい奴は心が温かい奴だ」
なんて可愛いこと言ってvかなりツボでしたv
二人がとても幸せそうでふわふわした雰囲気で素敵です。
寒い冬にぴったりな楊太をありがとうございました!