いつも可愛いなって、思ってたんだ。
僕は麗しの君に告げる
「楊ぜ〜ん!」
人気のない森の奥深く。
毎日きっかりこの時間に、可愛らしい声が聞こえる。
師叔がぴんっと立った真っ白なうさみみを揺らしながら一直線に僕の方へ駆け寄って来た。
可愛い声に僕の茶色の耳が反応し、ぴくっと動く。
それからゆっくりともたれ掛かっていた木から身を起こしその人を迎える。
これが僕らのデートの始まり。
狼の僕とうさぎの君との、秘密のデート。
「こんにちは師叔。今日は何して遊びます?」
急いで駆けてきたのか師叔の顔は少し赤くて、息が上がっていた。
それに僕がクスクス笑うと、ぬぅっと可愛らしく上目で睨まれてしまった。
はふぅっとなんとも幼い仕草で呼吸を調整するもんだから、なんとなく僕はじいっと師叔を見つめてしまう。
師叔が顔を上げたと同時に気付かれぬようぱっと視線はそらしたが。
「そうじゃのう・・・あっ、あそこ!わしあそこ行きたい!」
「あそこ?どこですか?」
「この前森から帰る時見つけたのじゃが、見事な桃の木があるのだ!今日はそこで遊ぼう?の?」
僕の気も知らず殺人的な可愛さで師叔が首をかしげてきた。
僕は師叔にこのきらきら顔を輝かせながら強請られるのに弱い。
この人は只でさえ可愛いのに、更に可愛く見えてしまうのだ。
僕達が知り合ったのは1ヶ月ほど前で、師叔が罠に掛かっていたところを僕が助けてあげた。
可愛いうさぎ。
僕は一目で恋に堕ちた。
師叔はこーんなに大きい木なのだぞと両手をいっぱい広げてもまだ足りないといった風にその桃の木を頑張って表現してくれている。
いつもは昼寝じゃ!って言うのに珍しいな。
早く行こうと師叔はうさぎらしくぴょんぴょん跳びはねて僕の服を引っ張って催促する。
目の前で揺れるうさみみに口づけたい衝動をなんとか抑え、にっこり笑って頷いてみせた。
師叔はぱぁっと嬉しそうな笑顔を浮かべてくいっと僕の手を掴んだ。
「わしだけの秘密の場所じゃ。お主だから教えるのだぞ?」
「・・・・有り難う御座います」
手を繋いで・・・というか僕の手を引っ張って師叔はどんどん森の中を進んで行く。
どうか絶対こっち振り向きませんように。
僕は気付かれないよう自分の顔に繋いでいないほうの手をあてて、赤くなっている頬を隠した。
不覚・・・結構長く一緒にいるがああゆうのは心臓に悪い。こういうのを不意打ちって言うんだ。
無防備すぎる師叔・・・・・
他の人にもこうなんだろうか?
「師叔、そんなに急がなくても桃は逃げませんって。もうちょっとゆっくりでも・・・・」
「わしは早くお主にあの見事な桃の木を見せてやりたいのだ!」
そう言ってまたぐいぐいと僕の手を引っ張っていく。
師叔の言葉にまた単純な僕の胸がとくんっと鳴った。
嬉しいです・・・っと小声でいい、繋いだ手をそっと握ってみた。
考えてみれば僕は師叔のことは何も知らない。
師叔もきっと僕の気持ちは知らない。
デートなんて僕が勝手に思ってるだけで師叔にとってはただ純粋に遊んでるだけなのだろう。
ただ確実に触れあった場所が熱を持ちはじめていた。
狼である本能が君が欲しいって。
勝手に血が騒ぎ始めて、今日は何だか止まらないかもしれない。
師叔の言う桃の木は森の入り口近くの、少し脇道に逸れたところにあった。
「どうじゃ!見事であろう♪」
「はぁ・・・こんな所にこんな木が・・・。よく見つけましたね師叔」
「桃に関してはわしは人一倍鋭いのだv」
思わず感嘆の溜め息を漏らしてしまう僕に師叔は満足したようだった。
桃の木は師叔の両手どころか僕ですら両手を回せないほど立派なものだ。
その枝という枝にはよく熟れた果実がいくつも実り、甘い芳香を漂わせている。
もしかしたら師叔はこの甘い匂いに誘われてココを発見したのかもしれないな。
その様子を思い浮かべクスッと笑い、すでに桃の木によじ登り始めている人を追いかけた。
「楊ぜん、ほれっ一番大きいやつじゃ」
「おっと」
師叔が木の上から投げてよこした桃をキャッチし、よく服で擦ってから一口かじってみる。
今まで食べたどの桃よりも甘い・・と言っていいほどおいしかった。
ニコニコと両手にいっぱい桃を抱え、ぴょんっと僕の隣に飛び降りた師叔にお礼を言う。
「有り難う御座います。とってもおいしいですよ」
「ふふふ♪絶対お主も気に入ると思ったのだ!ここの桃は格別なのだ〜v」
「でもいいんですか?僕が一番大きなのを貰ってしまって・・・」
「よいのだ。さっきそれよりも大きな桃見つけたからのうvv」
そう言って僕のよりも一回り大きい桃にパクッとかぶりつく。
なんともこの人らしくて、声に出して笑うと。
師叔は少し僕を睨んで少し頬を赤くして、ダアホ・・・・と呟いてまたパクッと桃をかじった。
・・・・・・目眩がしそう。
「可愛いですね」
「は?」
何個めかの桃に手を付けようとしていた師叔に思わず本音が漏れてしまった。
しまったと思った時にはもう遅く、師叔がきょとんとコチラを見つめている。
その口のまわりには桃がちょっと付いていて、また可愛いと言ってしまった。
甘い蜜で濡れた唇はとても淫らだと思ったが。
「お主・・・男が可愛いと言われて嬉しいと思うか?」
「男でも可愛いものは可愛いんです。師叔がうさぎだから余計にそう思ってしまうのかもしれませんけどね。僕うさぎって好きなんですよ」
開き直って、告白めいたことを言ってみる。
まあ、師叔は全然わかってないみたいだったけど。
がくっと僕が肩を落としたのにも気付かず、師叔はうーうーと唸って何か聞きづらそうにしていた。
「師叔?」
「お、お主・・うさぎが好きって・・・・・・まぁ・・・狼だからしょうがないとは思うが・・」
「・・・?」
「まさか・・・・・・・・お主わしを食おうとか思っておるか?」
「・・・・・・・・・・はい?」
師叔は座ったまま僕からじりじりと後ずさっていく。
ぴんっと立っていた耳はぺたっと臥せられており、疑いの眼差しでコチラを見つめてくる。
僕は慌てて師叔のその誤解を解いた。
「そんなこと考えたこともありませんよ!そりゃ狼はうさぎ食べますけど、あなたを食べるなんてことは絶対にしません。それにうさぎが好きっていうのもただ単に可愛いなって思ってるからですよ」
別の意味では今すぐにでも食べたいと思ってるんですけど。
取り敢えずその言葉は伝えないでおいた。
「なんだビックリしたぞ。うさぎが可愛い・・・・か、わしはお主のほうが可愛いと思うのだがな!とくにこことか」
「・・っ!!うわぁっ」
「??」
突然身体に痺れが走り、バッと師叔から身を離す。
変な声出した僕にビックリしている師叔。
そりゃシッポ握られれば誰だって驚くでしょう。
それにそこは僕的にかなりの・・・・性感帯で。
「ふっふっふ・・。お主の弱点見つけたり!!」
「ちょっと師叔!?やめてくださいってば〜!!!くすぐったいですって!!」
「一度このふさふさに触って見たかったのだ♪触り心地いいのう〜vvv」
「それなら師叔のここだって・・・・・」
草の上に倒れ込んで二人でじゃれ合う。
桃の葉が舞い散り、髪に絡んでも気にならなかった。
師叔と桃の甘い匂いが心地よく僕の鼻をくすぐっている。
触れあった場所は確かに暖かかった。熱さではなく。
僕の本能で、真っ白でキレイな君を汚したくはないのだ。
結構今のままでも幸せだし。
「ひゃうっ!!」
戯れに掴んだ丸くてふさふさの師叔のしっぽ。
師叔も自分で出した声に大きな目をぱちくりさせている。
僕は慌てて手を引き、そのまま何となく気まずい空気が流れた。
状況は非常にヤバイ。
何とか理性が切れるぎりぎりで踏みとどまった自分を賞賛してやりたい気分だ。
明らかに艶を含んだ君の声を聞くのは初めて。
再び血が騒ぎ出す。
けれどそれには気づかぬふりをし、この場の空気を変えようといまだ戸惑いの表情の人へ話しかけた。
さりげなく話題の転換も忘れずに。
だけど、それがまずかった。
「そういえば師叔・・・本当に良かったのですか?こんないい場所僕に教えたりして」
「・・あぁ良いのだ。言ったであろう、お主だから教えるのだぞって」
寝転がったままくるんっと僕のほうを向き、師叔が笑う。
深い意味はナイのかな。あったら嬉しい。
耳についた葉をぱたぱたと払いのける仕草に愛しさが込み上げてきて。
「楊ぜんは大事な友達だからのう」
・・・・・・
一気に血が湧き上がる。
気が付けば師叔の上にのり、組み敷いていた。
「・・・楊ぜん・・?」
「・・・ごめんなさい」
謝る言葉に嘘はなかった。ただ細い身体を押さえる力が抜けない。
強い力で押さえつけられ、師叔の顔に焦りの色が浮かぶ。
そして上から見下ろす常とは違う僕に、師叔はふるふると震えた。
細かに震える耳を撫でれば、小さくびくっと反応が返る。
「本当に可愛いですね・・・あなたは」
「え・・・っん・・・!」
ずっと重ねてみたかった桜色の唇。
掠めるだけで終わり、臥せられた耳にもちゅっと口づける。
ずっと思っていたんだ。
君を僕のものにしたい。
「よ・・・ぜ」
「初めて会った時からずっと・・・・・・いつも可愛いなって思ってたんですよ?」
甘い匂いがまた僕の鼻をくすぐる。
予想に反して師叔の顔はなんだか凄く真っ赤だった。
つづく
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