そばに、来て。

君がいないと心もとない。




きみのうしろすがたがすき。




穏やかな午後が過ぎ、夕食づくりに忙しくなる夕暮れ時。
だけど、わしには関係ないけど。
だってうちには優秀な主夫がおるからのう。

「師叔ー。テレビ見てないでちょっとは手伝ってくださいよ」

「手、切るからヤダ」

「別に包丁もたせようなんて思ってませんよ・・・もぅ」

とか何とかぶつぶついいながら。
結局はいつもおいしい料理を作ってくれる、お人好しな彼。
でも、わしが手伝ったほうが作業が手間取るっての、まだ学習しんのかのう?

楊ぜん曰く。

『だって、そのうほうが楽しいですし・・・・新婚さんみたいでvv』

きっとあやつの頭の中は、一年中春なのであろうな・・・。
そんなどうでもイイコトを考えながら、器用にキャベツを千切りにしていく楊ぜんを眺める。
といっても、こちらから見えるのは後ろ姿で。

だけどそれがいいのだ。

「のぅ〜楊ぜん。今日のメニューはなにかのう?」

これまた器用に、千切りにする手を止めず楊ぜんが振り向く。
ああ、危ない奴だのう・・・。

「今日は師叔の好きなお豆腐ハンバーグですよvあと野菜炒め」

「野菜炒め・・・・・・のう、ピーマンはいれるなよ?」

「好き嫌いはいけませんよ師叔。食べなきゃお仕置きです♪」

「う゛ぅ〜!」

まったく。何でもかんでもお仕置きと言えばわしがおとなしくなると思って!
まぁ・・・・なるけど。この言葉にはさすがのわしも敵わない。
でもそのかわり、ちゃっかり好物も一緒に出してくれるから怒れないのだ。

「もう少し、待っててくださいね。早く作っちゃいますから」

「んー」








テレビの音と料理の音。ときどき楊ぜんの鼻歌なんか聞こえてきて。
だんだんといい匂いがしてきて、お腹がぐぅっと音をたてる。
匂いにつられてキッチンをみると。料理をつくる、楊ぜんの後ろ姿。
あやつは気付いてないだろうが、いつもこうやってずっと眺めておるのだ。

キッチンに立つ、後ろ姿を。
満足するまでみて、ちょっとテレビで気になる事をやってたから楊ぜんから目をはなした。

「お、楊ぜん。このCMのコレ、確かお主が欲しがってたやつじゃろ?」

・・・・・?

返事がない。

「楊ぜん?のぅ・・・」

あれ?いない。
今までそこにおったのに、どこいったのだ?

「・・・・・ま、いっか。」

トイレか、他の部屋に何か用事でもあっていったのだろう。

・・・・・・・・・・・。

遅い。

数分たっても楊ぜんは戻ってこなくて、わしはとりあえずキッチンにむかった。
そこには作りかけの料理と、いくつかの材料。
自分以外、人の気配を感じなかった。

「楊ぜんー?」

急に不安で胸がいっぱいになる。
なんでこんなことぐらいで、と思うが気持ちは焦る一方で。
名前を呼びながら、部屋中を探し回る。

けど、やっぱりいなくて。

「楊ぜん・・・・」

胸がざわめく。
夕暮れ時は一番キライなのだ。
寂しい気持ちになるから、誰かにいて欲しい。

まあ、誰かってゆうか・・・・だけど。

二人で暮らすようになってから、あの後ろ姿がないと安心できないのだ。
バカみたいだけど。

なんだか涙なんか、滲んできて。

 

ガチャッ。

 

「!」

「はぁ・・・失敗したなぁ。僕としたことがタマネギ買い忘れるなんて・・・って、わっ!」

「楊ぜん!!お主どこいっておったのだ!」

玄関でぶつぶつ独り言を漏らしている楊ぜんに、思い切り抱き付いた。
何のだお主。どこかに行くなら行くと言ってからにしろ!

「え?いえ、あの・・・タマネギ買い忘れたのでちょと近所の八百屋さんに行ってたんですけど」

いきなりのわしの行動に、楊ぜんはおろおろしておる。

だって。・・・・絶対言ってやらないけど。
寂しかったのだ。

拗ねてしまったわしに、楊ぜんは困ったような溜め息をついて。
取り敢えずタマゴの入った袋を横に置き、抱き付くわしの頭を優しく撫でた。

「もぅ・・・赤ちゃんですか、あなたは」

「は?」

いきなりの発言に、思わず顔をあげる。
楊ぜんは、呆れた顔でもなくて怒った顔でもなくて。
優しく笑って、わしの頬をなでた。

「ほら、泣いてる。赤ちゃんって、母親がそばにいないと不安で泣いちゃうんですよ?」

「なっ・・・う、うるさいうるさい!目にゴミがはいっただけだ!」

それでも抱き締めた腕は離さないのだから、言葉に説得力はないのだけど。
楊ぜんも、そのまま離さないでいてくれた。

 

「のぅ・・楊ぜん」

「はい?」

 

ココ、に楊ぜんがいる雰囲気。

あったかい体温。

 

「・・・・・・お主はお母さんみたいだのぅ」

「フフッ・・それは困りますね、恋人としては」

 

料理をつくる後ろ姿。

大好きな、お主。

夕暮れ時の・・・・出来事。


 

 

楊ぜんお母さんシリーズその2(シリーズだったのか)
師叔がまたもや赤ちゃん扱い〜;
母親のイメージといえばやはり料理をつくる後ろ姿かと。