「キスしてもいいですか?」

いつものこと。それはいつも突然に告げられる。

「ってゆーかしようか」

少し強引な言葉。
こちらの反応を面白がるような意地の悪い微笑み。
でも、頬にのばされた手のひらはとても優しくて。
そんな些細なことがどんなことより嬉しい。
触れられた場所が暖かく、心地よさに瞳をとじる。

重なる唇は柔らかい。
浅い口づけはだんだんと熱く、深いものへと変わってゆく。

 

・・・・・・・・・・・そう。これが二人きりの時ならばわしとて何も言うまい。

二人きりの時ならば。

 

 

++Please think about TPO++

 

 

午後の仕事もこれで終わりっと、太公望は今日処理した大量の書簡を抱え
武王に裁可の印をもらいに行くため中庭の見渡せる城の廊下を歩いていた。

今日は珍しく仕事が少なく、まだ日も高いうちに切り上げることができた。
一番眠気を誘う午後からの仕事は、太公望にとってただただ、周の宰相自慢のハリセンで
はたかれまくる時間でしかなかったので、今日という珍しい日に感謝していた。

「仕事が終われば昼寝したって誰にも文句言われずにすむのう〜・・・・・」

くぁっと可愛らしいあくびをし、ぼーっとしながらどこで昼寝を楽しもうかのう・・・と考えていると

「太公望師叔」

聞き慣れた良く透る声で呼び止められ、後ろを振り向く。
そこにはやはり良く見慣れた蒼の麗人が立っていた。

「楊ぜん、お主も今日は終わったのか?」
「はい。師叔ももうすぐ終わりでしょう?それで、よかったらこれから一緒に街にでもいきませんか?」
「む。・・・・・・・街か・・、昼寝しようと思っておったのだが・・・・・・・」

楊ぜんの申し出にほんの少し言葉に詰まり、その後思い切ったように問いかける。
頬をほんの少しだけ桃色に染めながら。

「楊ぜん、そっ・・・それはもしかして『でぇと』・・・・というやつ。。。か?」
「はいvvデート、というやつですvv」

いつまでたっても初々しいことを言ってくれる可愛い恋人に、楊ぜんの顔の筋肉は緩むばかり。
あ〜v可愛いなぁvv
ちらちらとこちらを伺いながら、む〜・・と唸って悩んでいる太公望をニコニコとしながら見つめる。

と、その人の腕のなかにある山と積まれたものに目が止まる。

「師叔。重そうですねそれ、半分お持ちしましょうか?」
「え・・?あ、ああ。すまんのう」

もともと小柄であまり力のない太公望が大量過ぎる書簡を持っている姿は
見ているこっちを痛々しくさせる。
楊ぜんは太公望が抱えている半分を自分の腕のなかに持ってくる。

太公望は改めてお礼を言おうと楊ぜんのほうを見やった。
その時、ふっとあることに気がつく。

 

半分持つ・・・・・と言っておきながら、明らかに楊ぜんが持ってくれた書簡の量のほうが自分よりも多いのだ。

「・・・・・・・・・・」

そんな楊ぜんの何気ない心づかいに、嬉しさで胸の奥がぽかぽかするのを感じる。
本当に優しい。この恋人はいつだって自分のことを気遣ってくれているのだ。
微笑んで、改めてお礼を言う。

「・・・・ありがとう楊ぜん」

自分との身長差のせいで少し上目づかいに見上げ、ふわっと花が咲いたように
嬉しそうにお礼を言う太公望のなんと愛らしいことか。
危うく、あってもないような細い理性の糸が切れそうになる男楊ぜん。

・・・・・なんていう可愛らしさ。あぁ・・・・ここまでくると犯罪だ・・。

などと考えながら、俯いて必死に自分を押さえ込もうと奮闘している楊ぜんを
知ってか知らずか(きっと知らないんだろうけど)気分でも悪くなったのかと勘違いし
太公望は楊ぜんの顔を下から心配そうに覗き込む。

「楊ぜん?」

大きく、心なしか潤んで見える碧の瞳に覗かれ

ぷちっ。

楊ぜんの何かが切れた。

 

 

 

じりじりじり。

「・・・・・・・・・・・・・・・・おい?」

不審そうにこちらを見つめる視線にはお構いなしに、太公望を壁ぎわに追い込みじりじりと近づいていく。
そして、持っている書簡を器用に片腕で抱え、壁に追い込んだ太公望の後ろにもう一方の手をつきお互いの距離を縮める。

何か言おうとする太公望を遮って、楊ぜんは自分しか知らないその人のもっとも敏感である場所に
息を吹き込むようにぼそっと小さく囁いた。

「師叔・・・・してもいいですか?キス・・・・・・・今すごくしたい」

くすぐるような甘い吐息を耳元のすぐそばで感じて。
太公望は、こんな時でも反射的に震えてしまう自分の身体を叱咤し、精一杯に反論をする。

「な・・・・・・!ば、ばか者!!こんなところで・・・・・」

されてたまるか!と強く睨み付けたが、楊ぜんの瞳はすでに、紛れもなく夜のそれ。

「関係ありません」

二人の夜にしか見せない輝く瞳に太公望は一瞬ひるむ。こうなってはもうダメだ。もう止められない・・・・。
どうしよう、どうしよう、何か良い策はないか!?
思考を巡らせるがいきなりのことで頭が良く回らない。
くぅ!こんな時こそ役に立たぬかわしの頭脳!!
けれど一向に良い案は浮かんでこない・・・。

そんなことを考えている間に、楊ぜんの顔がもう目の前に迫ってきていてさらに慌てる太公望。

「関係わしには大ありじゃーーー!!時と場所を考えろーーーーーー!!!」

冗談じゃない!
ここはいつ誰がきてもおかしくない城内の廊下。
誰かに見られてもおかしくない状況。

というか、現に中庭で稽古をしている天化と天祥がすぐそこにいる。

もし見られでもしたらどうするのだ!??
わしは恥ずかしくて外を歩けぬぞ!?

手には書簡を持っていて充分には抵抗できないが
それでも一生懸命顔を背けて迫ってくる秀麗な顔から逃れようとする。
それに焦れた楊ぜんが、壁についていた手を離し太公望の顎に掛けてこちらを向かせようとした

が。

「ごしゅじ〜ん」

 

ばしぃっっっっっっっっ!!!!

 

「おおおおおお、お、お、おお!スープーよ、な、な何か用か・・!?」
「あ、ご主人!こんなところに・・・・・・・・・・・って、?
なんで楊ぜんさんは顔おさえてこんなとこに倒れ込んでるッスか?」
「い、いや、別にたいしたことではないよ。気にするでない」

とりあえず今までのことは見られていないようだ・・・。ふうっと小さく安堵の息をつく。

「たいしたことって・・・師叔〜〜、ひどいですよ書簡でこの美形な顔をいきなり・・・・・・」

赤い顔をさすりながら文句を言ってくる楊ぜんに腕をつかまれそうになり
太公望は慌てて四不象の背に飛び乗った。

「ゆくぞスープー!とにかく飛べ!!とにかくゆくのだーーーーー!!」
「はあ?」

四不象は主人の訳の分からぬ命令に困惑しつつも、了解ッス!と素直に大空に飛び立つ。

「楊ぜん!その書簡、後はたのんだぞーーー!!」
「あ!師叔!デートはどうするんですかー!?」

一人ぽつんと取り残された楊ぜんの叫びは虚しく、大きく吹いた風のなかに掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあやつはいつもああなのかのう・・・」
「まあまあ、望ちゃん」

ぶつぶつと文句の言葉を綴る幼なじみを宥め、普賢はいれたての紅茶と桃をすすめ、テーブルにつく。

楊ぜんから逃げてきた太公望は普賢の洞府にきていた。
普賢は突然訪れた太公望に嫌な顔はひとつもせず、快く迎え入れこの親友の悩みを聞いている。

「今日だけではないのだぞ。いつも、人に見られてそうな場所でもかまわずしようとするのだ」
「楊ぜんらしいねぇ」
「らしかろうがわしは困るのだ!恥ずかしい・・・!
・・・・・・あやつはホントに優しいのだがのう。そう言うところにも気を遣ってくれんものか・・・」

聞きようによってはただののろけ話。
それでも普賢のエンジェルフェイスは嫌な顔どころかむしろとても楽しそうだ。
今までこの幼なじみの口からこういった色恋に関することがでることはなかった。
だけど今こうして頬を染めながら相談をしてきてくれるという、わずかながらの太公望の成長が
普賢にとってはすごく嬉しいのだ。

「楊ぜんとするのイヤなの?望ちゃん」

普賢の質問に太公望の顔は耳までかあっと赤くなる。

「い、いや・・・・・・・別に嫌というわけでは・・・・・。ところかまわずというのが嫌なだけで
二人きりのときならいいかなー・・・・・・とは思うが・・・」

言い訳はしどろもどろ。
その後も、ぶつぶつあーでもないこーでもないと続ける太公望にふっと短いため息をつく。

「したいんならしたいって素直に言えばいいのに」
「ば・・・・・・・!わしは別に!!」

どうしてそういう考えにいきつくのだ!?と、普賢の物言いに憤慨する太公望。
でも先程より真っ赤に染まった顔が、その言葉を肯定しているようで。
クスクス微笑み、そんな態度が気にくわなかったのかさらにわめく太公望をはいはいっとあしらいながら。

うぶな恋人を持つと色々と大変だね・・・・・と普賢は楊ぜんに軽く同情したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく普賢のやつ・・・・・」

相談したわしがバカだった・・とぼやきながら太公望は自室へと向かう。
久しぶりに会ったということもあって、あのあとも普賢と随分と話し込んでしまい
仙人界からもどったのは夜もだいぶ更けた頃になってしまった。

「うぅ。仕事は終わらせて行ったとはいえ何も言わずに城を抜けたからのう・・。旦に怒られるやも」

明日確実に受けるであろうハリセン攻撃にうんざりして、大きくため息をつこうとしたとき
自室のドアの前に何か蒼いものが見えた。
?・・・と思う間もなく今度はその蒼が自分の目の前に広がり、同時に身体がきつく抱きしめられる。

「師叔!!・・・よかった!」
「楊ぜ・・・?」

息も出来ないほどのきつい抱擁を受け、言葉に詰まる。
苦しさに楊ぜんの背をぽかぽかと叩くと、あぁ、ごめんなさいという声が聞こえ腕の力が少し緩まった。

「師叔・・・・・心配したのですよ?行き先とか言わずに行ってしまったからあなたを迎えに行きようがないし。
夜になっても帰ってらっしゃらないから、どこかで事件にでも巻き込まれいるんじゃないかと心配で、心配で・・・・・。
こんな夜遅くまでどちらにいらっしゃったのですか」
「え・・・・・ちょっと普賢のところに・・・・」

今日、自分は楊ぜんにあんな態度をとったのに。
なのに自分をこんなにも心配していてくれた。

そのことが嬉しくて、背中に手を回しきゅっと楊ぜんに抱きつく。
しかし、すぐはっ!としてここが自室の外だたいうことに気がつき、誰かに見られてなかったか確認して
太公望は楊ぜんに、とりあえず部屋の中に入ろう・・と促した。

 

 

 

室内は灯りをつけなくても月の光だけで充分に明るかった。
お互いの顔もはっきりと見えるほどに。

ドアも閉め終わらぬうちにまた、楊ぜんは華奢な幼い身体を抱きしめる。
しばらく抱きしめあって鼓動に耳を傾けていたが
太公望は昼のことが気になって、顔が見える位置まで身体を離し問いかけた。

「怒っておらぬのか・・・・・・・?その・・・・・・・昼のこと」
「う〜ん・・今日のは得に痛かったですからねー・・・・」

書簡をぶつけられたところを大げさなくらいさすりながら、冗談っぽく言う。
今日のは。を強調され太公望はうっ・・・と唸る。
いつもああやって抵抗していることを根にもっているみたいだ。

「すまぬ・・。でも、それはお主が・・・んっ・・・」

言い訳は突然重ねられた唇に遮られる。
あわせるだけの甘いくちずけ。

少し離し、微笑んで、怒ってませんよと伝え、楊ぜんは再び赤い小さな唇を味わい始めた。

「んんっ・・・はぁ・・・・・・」

触れあうだけのキスはいつの間にか口内を犯す激しいモノに変わっていて。
楊ぜんの口づけに、どうしようもなく翻弄される。

 

いつも拒んではいるけれど、それは恥ずかしいから。
人前でとか、ところかまわずされるのなんて恥ずかしい。

だけど今は二人きり。
TPOさえ考えてしてくれるなら、普賢のいうようにわしも・・・・したいのかもしれない。
だって、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・楊ぜんのくれるキスはいつだって気持ちいいから。

その気持ちを伝えるかのように、稚拙ながら、太公望のほうからも口づけに答えようとする。
一生懸命自分に答えようとしてくれる太公望がたまらなく愛しくて。
楊ぜんは立ったまま抱きしめていた身体を抱きかかえ、寝台のほうに運ぶ。
そっと寝かせた太公望の上に覆い被さり、口惜しそうに口づけでますます赤みを帯びた唇をちゅっと一回吸い上げて
その間も続いていた口づけをふっと中断する。

「キス・・・・・好きですよね、師叔は」
「なっ・・・ち・・・・違っ・・!」

キスの余韻に、まだ上手く口がまわらなかったが
楊ぜんに意地の悪いことを言われ、咄嗟に言い返そうとする。

けれど、言葉はまた口づけの中にとけていった。
今度は初めから深く、さっきよりも熱の篭もった激しいキス。

「ふ・・ん・・・・・・・やぁ・・・」

太公望はわずかな抵抗を示すが、それも弱々しいもの。

熱い口づけは長く長く続き・・・・・・・・・・・・・・・・。

楊ぜんが唇を解放したときには、太公望の息はかなりあがってしまっていた。
はぁはぁと小さな肩で息をつくその人の表情はとろんっとしていて、とても可愛らしい。
楊ぜんからふふっと微笑みが漏れる。

「嘘つき。ホントはいいくせに」

瞬間、首のあたりまで太公望は真っ赤に染まる。
反応の可愛さに楊ぜんはさらに笑みを深いものにした。

図星なだけになにも言い返せない。ただただ羞恥に身体全部が熱くなっていくのがわかる。

「ねえ、師叔。こっち向いて」

恥ずかしさで背けていた顔を優しい手のひらで包まれる。
そろっと視線を向けてみるととても綺麗な笑顔がそこにあって、思わずどきっとしてしまった。
それから、啄むような口づけがいくつもいくつも降ってきた。

「くすぐったい、楊ぜん・・」
「師叔。明日デートしましょうか」
「え・・・でも、仕事はどうするのだ」
「ちょっとくらいさぼったって平気ですよ」
「そ、そうかのう〜・・?」

太公望の脳裏にはハリセンを振り上げて憤怒する人物が浮かんだが
デートという誘惑にそれは簡単に掻き消されてしまった。
そんな太公望にふっと微笑み、楊ぜんは赤い頬におとしていた唇を小さな赤い唇の端に移動させ
触れるか触れないかの距離でそっと囁く。

「して欲しいですか・・・・・・・・?」

吐息を感じる位置で、悪戯っぽい笑みを浮かべて問いかけてくる。

 

して欲しい。

 

頬を包んでいる手に自分の手も重ねてみる。

重ねた指先では伝わらないだろうか。
二人きりだけど、こればっかりは恥ずかしくて口にはだせないから。

「楊ぜん・・・・・・・・・・」

ならば、行動で。

今、してくれているように楊ぜんの頬を優しく包み込む。
少し驚いているような表情の恋人に、二人のときにしか見せない極上の笑みを贈って。
・・・・おくって、そして。

 

 

そして指先よりも確かに、深く深く重なったのは・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+END+

 

 

魅剣 斬様からの1000HITリク。
リク内容は↓
「キスを迫る楊ぜんに抵抗しながらも実は早くして欲しい太公望」
と言う感じです。(感じ?)
記念すべき初リクだったと言うのに、いつもの如くわけ分からなくなりました〜☆←死ねvv
この駄文の一番大きな問題点は三行目の楊ぜんのセリフです。
あんた誰・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
あ〜vでも強引な王子も素敵ですね。師叔もドッキドキ!??(半壊)

魅剣 斬様☆リクエスト有り難うございました!!

 

 

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